コラム
『おちょやん』解説

『おちょやん』成田凌演じる「天海天海」の史実がひどすぎる! 不倫妊娠だけじゃないヒロインへの裏切り

2021/04/22 13:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

現在放送中のNHK連続テレビ小説『おちょやん』。ヒロインの千代は、喜劇女優の浪花千栄子さんをモデルとしていて、浪花さんの自伝『水のように』(朝日新聞出版)に登場する人々や逸話を巧みに再構成して出来上がった作品です。そんなドラマの登場人物の“本当の話”を、『あたらしい「源氏物語」の教科書』(イースト・プレス)などの著作を持つ歴史エッセイストの堀江宏樹氏が解説!

NHK『おちょやん』公式サイトより

天海天海のひどすぎる史実

 今季の朝ドラ『おちょやん』で、個人的に一番の収穫といえるものは、成田凌さんという俳優を”再発見”できたことです。以前の朝ドラ『わろてんか』(2017)にも、成田さんは出演していましたが、「背の高いイケメンさん」くらいしか印象がなかったんですよね。

 ところが、今回の成田さんは『わろてんか』とはまるで違う存在感を発揮しているように思われます。関西弁の台詞回しだけでなく、立ち姿、動き、目線まで「上方喜劇のプリンス」天海天海(あまみ・てんかい)こと天海一平になりきっています。「芝居の世界でしか生きられないんだろうなぁ」というオーラ、まさに「役者はん」という感じが出ていますよね。

 今回は、そんな成田さんが熱演中の天海天海のモデル、昭和中期のカリスマ喜劇俳優にして名脚本家の渋谷天外(しぶや・てんがい)のお話です。

 母親に早くに捨てられた孤独な渋谷いわく、「九つで私は酒を飲むことを知った」そう。父親の晩酌の相手をさせられたからで、渋谷の少年時代は荒れたものでした。ドラマでも父親が亡くなった後、劇団の人との確執が描かれましたが、史実はさらにめちゃくちゃで、劇団からは冷遇され居場所がないので、13歳のときに「かけごとを覚えた」が最後、のめり込んだ渋谷はプロの「ギャンブル師」として毎月の生活費を稼ぐようになり、15歳で年上の女浪曲師のヒモになったという、文字通りの「非行少年」だったのです。

 ちなみにこの部分のソースは、日経新聞の名物連載「私の履歴書」ですが、当時はコンプライアンスがゆるかったみたいですね。

 十代後半は東京で「中華そば」ばかり食べてブラブラしているのを、屋台のオヤジに心配されて過ごしたり、俳優なんかやめて「株屋」として稼ぐ、と息巻いたりしたけれど、芝居の世界が彼を離してくれず、結局はまた舞台に立つようになったのでした。

 ちなみにドラマでも描かれた、女形の俳優さんを切り捨て、ボコボコにされる事件は本当に起きたことです。史実ではさらにひどく、失神するほどリンチされたそうですよ!

 ほかにも、ヒロイン・千代のモデルである浪花千栄子と結婚するまでに、本気になった女性(氏名不詳)と入水自殺を企てるものの、邪魔がいろいろと入り、飛び込めないままでその日は終わりました。

 しかし、それでお互いの気持ちまでが冷めてしまい、うどんを一緒に食べて「では、お達者で」と別れてそれっきり、というようなこともありました。

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