芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』
アカデミー賞6部門ノミネート『ミナリ』から学ぶ、韓国と移民の歴史――主人公が「韓国では暮らせなかった」事情とは何か?
2021/04/09 19:00
2002年、当時韓国で人気を誇っていたユ・スンジュンというミュージシャンが、散々兵役を遅らせた挙句、「アメリカでかなえたい夢がある」という理由で韓国国籍を捨て、アメリカ国籍を選んだというニュースが韓国を駆け巡った。彼が遠征出産の申し子であるかは別として、二重国籍を有していた彼が兵役逃れのためにアメリカ国籍を選んだことは明らかであり、国中の大バッシングに発展し、政府は彼に入国禁止を言い渡すまでに至った。あれほど人気者だったミュージシャンが、二度と韓国で活躍する姿は見られなかったばかりか、その後に法律まで変わり、今では二重国籍による兵役逃れができない仕組みになっている。
兵役をめぐる問題は、移民が絶えない例として具体的でわかりやすいものだが、儒教的な縦社会である韓国においては、少しでも人より上に立つことが「より良い人生を保証する」と示しており、その最も明確な方法が「アメリカ移民」という選択だったのは間違いない。現地で実際に成功を収めるかどうかにかかわらず、アメリカに行くこと自体が一種の「身分の上昇」を意味していたからである。
韓国ドラマや映画の中で、在米韓国人が常に“憧れの対象”として描かれてきたのも、そうした韓国社会を反映したものである(なお、ジェイコブを演じたスティーヴン・ユアンの出演作『バーニング 劇場版』<イ・チャンドン監督、18>を取り上げたコラムでも解説している)。うまく言い表せないが、韓国人のアメリカ移民の背景には、歴史や軍隊の制度だけでは片づけられない、根深い「韓国的な事情」が潜んでいるのである。