コラム
『おちょやん』解説

『おちょやん』井川遥演じた「女優・高城百合子」の事実にびっくり! ドラマでは描けない悲劇の亡命

2021/04/10 14:30
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

 天外は何回か自伝を残しているのですが、岡田と杉本との接点については、なにひとつ書き残していません。しかし、浪花は、岡田・杉本については名を伏せているものの、「天外さん、よく赤(=社会主義者)を連れて帰ってくるんです」「当時は(警察に見つかるかもわからないので)こわかった。この赤の世話、ずいぶんさされ(=させられ)ました」と証言をしています(『渋谷天外伝』)。

 その世話の中には、ロシアはさすがになかったようですが、「満州に逃げたい」という「赤」に、現在の日本円で数十万単位のお金を浪花が用意し、それを「赤」に与えるという慈善活動のようなことも含まれていたようです。

 浪花の証言に岡田のことは一切出てきません。絶対に知らなかったハズはないのですが、語らないところを見ると、当時、天外の妻だった浪花にとって、あまり良い話ではなかったのでしょうね。岡田・杉本のロシア亡命は、岡田の熱望だったらしく、それを天外が陰から熱烈に支援していたとなれば、岡田と渋谷には男女の関係ではないにせよ、もっと濃い絆が感じられ、それが妻としてあまり面白くなかったのかもしれません。まぁ、当然といえば当然です。

 そもそも、史実の渋谷天外・浪花千栄子の暮らす家には多い時には「13人」もの居候がいたらしく、それも「赤」が何人か紛れ込んでも大丈夫という、カモフラージュだったのかもしれません。天外は「レーニンやマルクスは嫌い」と公言していたので、社会主義者ではなかったものの、本人いわく「自由になりたかった」から、社会主義運動家は応援するというスタンスだったようです。

 ドラマでは高城や小暮さんとの縁で、千代の客として現れた二人でしたが、史実では岡田・杉本ともに、天外……つまり、一平ちゃんのモデルの知り合い、もっというと「同志」だったということですね。

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