中学受験塾に洗脳されていた私……「T学園に入りたいのは、僕じゃなくてママ」息子の涙に目が覚めて
“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
わが子を中学受験に参入させる親の動機の一つに、中等教育以降の「上質な教育環境への期待」というものがある。
中学受験生の親には、「最難関校でなければならない」とか「偏差値60以上ないといかせない」とか、偏差値ばかりに気を取られる者もいるが、彼らだって、最初からそうだったわけではないのだ。
しかし、中学受験塾に通っているうちに、まるで洗脳されたがごとく、「偏差値至上主義」に変わってしまう。ここに、中学受験の恐ろしさが隠されていることも、また事実なのである。
菜々美さん(仮名)も、そんな親の一人といえるかもしれない。
菜々美さん自身は地方出身者ということもあり、中学受験は未経験。しかし、県立トップの公立高校を経て、関西の最難関私大を卒業した。やがて、一人息子の義則君(仮名)が誕生したものの、その後、夫の不倫が原因で離婚。以降、シングルマザーとしての道を歩んでいる。
「中学受験塾へ行かせるきっかけは、私の配置転換でした。残業が欠かせない職場になったので、義則の預け先として中学受験塾を選んだだけで、そこまで深く考えてのことではなかったんです。ただ、地元小学校が荒れていたので、できれば中学は義則が落ち着いて過ごせる環境を選びたいという気持ちはありました」
ところが、たまたま選んだのは、スパルタ系で有名な塾。しかも、難関校に行かせることに熱意を持った室長が君臨している教室だったという。
「面談でも、初めは『自宅から近くて、雰囲気もいいB学園』を希望していたんです。でも担任の先生が『何を言ってるんですか! 義則には力がある! 絶対にT学園に行くべきです!』って強く推してくるので、『そんなにいい中学に行けるんや?』って思って、舞い上がってしまったんですね……」