NHK『おちょやん』、篠原涼子の女将は「異常者」だった!? 本当は怖い“芝居茶屋”の児童虐待ぶり
現在放送中のNHK連続テレビ小説『おちょやん』。ヒロインの実父を演じるトータス松本がなにかとネット上で叩かれ、朝ドラ史上“最悪の父親”となりつつある一方で、ヒロインを支えるキャラクターたちの芝居に魅せられる人も増えているよう。そんな登場人物について、『あたらしい「源氏物語」の教科書』(イースト・プレス)などの著作を持つ歴史エッセイストの堀江宏樹氏が歴史背景からひもとく!
近年まれに見る問題作となっている、現在放送中のNHK連続テレビ小説『おちょやん』。3月5日放送回の視聴率が過去最高の18.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)になったと話題になりましたが、良作になってきている割には寂しいものがあります。
ヒロイン・千代(杉咲花さん)の毒父・テルヲ(トータス松本さん)のキャラクター設計が問題で、視聴者の見る気が早い時期に失せてしまったのでは、という声が最近は上がっているようなのですが、筆者も同意見です。それについては前回、お話させていただきましたよね。今回は、そのキャラクター設計が逆にうまくいった例について分析してみようか、と思います。
みなさんご存じのように『おちょやん』の主人公・竹井千代にはモデルがいます。昭和の大阪を代表する喜劇女優である浪花千栄子さんです。彼女には、今回の朝ドラの原作には“ならなかった”、つまり原作とするには悲惨すぎる、『水のように』(朝日新聞出版)という自伝がありました。それでも『おちょやん』は、『水のように』の逸話や、登場する人々のキャラクターを巧みに再構成して出来上がった作品なのですが、その一番の成功例が篠原涼子さん演じる、芝居茶屋「岡安」の女将・岡田シズというキャラではないかと思うのです。
今回の連ドラのタイトルにもなっている「おちょやん」とは、名前すら覚えてもらえない、店の身分カースト最下層の児童労働者のことです。「よく、そのタイトルにしたなぁ」と筆者はドラマ放送開始時、感心すらしていたものです。
なぜかというと、道頓堀の芝居茶屋で、おちょやんとして過ごしていた時代の浪花さんは、彼女の人生で確実に最悪の約8年間でした。あまりにつらいので、便所で首を吊ろうとしたこともありました。ドラマでは描かれませんでしたが、お店で飼われていたネコが、何かを察してまとわりついてきたので、自殺は未遂になりましたが……。それくらい、茶屋での労働条件はひどかったのです。
その芝居茶屋の女将は、浪花さんの自伝『水のように』では、お家はん(読み方は“おえはん”)として登場します。篠原さん演じる女将は、少々キッツイところはあるにせよ、ハートフルな女性です。
しかし、史実のお家はんはまったく違います。『水のように』には「異常者」として登場していますからね。
どこが異常かというと、浪花さんを一人前の女中に育て上げなければならないという「教育」の名の下で、「いじめ」を行って、楽しんでいるからです。おちょやん時代の浪花さんはお家はんから、口汚く罵られるだけでなく、「しつけ」と称して、生ゴミを食べさせられていました。