暮らし
白央篤司の「食本書評」
豆苗を植えて育て、豆にして……もはや大河ロマン! 日常の「食」の“ふしぎ”を追った『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』
2021/02/09 19:00
小さい頃、NHK教育(現在のEテレ)の番組を見るの、好きじゃなかっただろうか。植物がグングンと生長したり、種の中でどんな変化があって発芽に至るのかが見られたり。さほど高くない熱で休んだときなど、布団に入りながらぼんやりそれらの番組を見るのが私は楽しかった。その楽しさと、本書の楽しさは似ている。日常世界に転がっているたくさんの“ふしぎとひみつ”をわかりやすく示して、見せてくれる面白さ。
観察内容と同時に、玉置さんの語り口が大きな魅力だ。そう、筆致というよりは語り口。先にもラジオとか落語にたとえたが(上質な落語のマクラっぽいんだ)、すごく面白い独り言を聞かせてもらってるような感じ。淡々、軽妙、落ち着いたユーモア。そしてほどほどにクール。例を挙げたいのだが、一部を抜粋したところでこの面白さは伝わらない。
食に興味のある人ならきっと楽しめると思う。個人的に好きだったのは未熟のクルミを使っての果実酒づくりの回(イタリアにそういうものがあるのだそう)。そして食べた豆苗を植えて育て、生ったサヤエンドウを食べ、実った豆でみつ豆を作り(寒天と蜜も自作)、その豆をまた育てて豆苗を再収穫するという回。もはや大河ロマンであり、一大プロジェクトと呼んでもいいだろう。読んでいるとき、中島みゆきの「地上の星」がなぜか心に流れてきた。
白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。
最終更新:2021/02/09 19:00