芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

R-18韓国映画『お嬢さん』が“画期的”とされる理由――女性同士のラブシーンが描いた「連帯」と「男性支配」からの脱出

2021/02/05 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『お嬢さん』

『お嬢さん』(TCエンタテインメント)

 1950年代末に、映画における作家主義を前面に出してフランスで起こった映画運動「ヌーヴェルヴァーグ」。ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーといった映画作家たちを輩出し、彼らはシネフィル(「映画マニア」とでも言い換えられようか)が高じて映画評論家となり、その自然な帰結として自ら映画を作るようになっていった。

 韓国にもまた、同じような出自を持つ「巨匠」がいる。パク・チャヌクだ。『JSA』(2000)や『オールド・ボーイ』(03)『親切なクムジャさん』(05)『渇き』(09)など、韓国映画が国際的な評価を得るようになった立役者の一人であり、近年ではハリウッドやイギリスでも活躍。韓国映画を世界に知らしめる「21世紀の韓国映画ルネサンス」を、『パラサイト 半地下の家族』(19)のポン・ジュノと共に先導する役割を果たしている。 
 
 ポン・ジュノがエンターテインメントの中に大いなる社会性を潜ませる作風であるとするならば、パク・チャヌクは、リアリズムとはかけ離れた画面作りの中に、タブーや罪意識に基づく贖罪と救済(ただし、勧善懲悪とは全く無縁の)の過程を、過激に、時に過剰に、そして転覆的に描き出し、高い評価を得ている作家だ。近親相姦や宗教的な堕落を、視覚的に強烈な、美術的な表現で提示するその芸術性は、「カンヌ・パク」とも呼ばれるほど、カンヌ国際映画祭で高く評価されていることからも明らかだ。

 『オールド・ボーイ』がカンヌで審査員長を務めたタランティーノを熱狂させ、韓国映画初の審査員特別グランプリを受賞。さらに『渇き』も審査員賞を受賞している。ポン・ジュノがどちらかというとアメリカで熱狂を生んだのに対し、パク・チャヌクはヨーロッパでより好まれる傾向にあり、そこに両者の作家性の違いが見え隠れする。だが2人はライバルというよりも、実際は非常に仲が良く、パク・チャヌクはポン・ジュノがハリウッドで手がけた『スノーピアサー』(13)の製作者に名を連ねたほか、ポン・ジュノが『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞を受賞した際には、パク・チャヌクが真っ先に祝辞を送っていた。 

 今回のコラムでは、そんなパク・チャヌクがハリウッドに招かれて監督した『イノセント・ガーデン』(13)以来、3年ぶりに発表した『お嬢さん』(16)を取り上げたいと思う。本作もまた、観客の想像を超える「過激で転覆的」な物語と女性同士のベッドシーンが話題を呼び、日本ではR-18作品に指定されたにもかかわらず、世界中で多くの観客を動員したヒット作となった。パク自身はカンヌでの受賞には至らなかったが、「ミザンセン(画面演出)」を高く評価され、パクと長きにわたってコンビを組んできた美術監督のリュ・ソンヒが、技術賞にあたる「バルカン賞」を受賞。また本作は、世界176カ国へ輸出されるなど、海外でもそのエンターテインメント性と作家性が認められる結果となった。 
 
<物語> 

 1930年代の植民地朝鮮。幼い頃に両親を失い、叔父・上月(チョ・ジヌン)の厳しい保護の下で暮らしている秀子(キム・ミニ)。ある日、藤原伯爵(ハ・ジョンウ)の紹介で朝鮮人の少女・スッキ(キム・テリ)が、「珠子」の名で侍女として秀子に仕えることになる。毎日のように叔父の書斎で本を朗読するのが日常の全てだった秀子は、いつしか純真なスッキを頼るように。だがスッキの正体は、有名な女泥棒の娘で、詐欺集団によって育てられたスリだった。そして藤原伯爵もまた、秀子を誘惑して結婚し、彼女が相続する莫大な財産を横取りしようとする詐欺師。スッキはそんな伯爵の企みに乗り、秀子と伯爵が結ばれるよう仕向けるために送り込まれたのだ。秀子の心を揺さぶるため、藤原伯爵とスッキの陰謀が始まるが、3人の関係は予想だにしない方向へと進んでいく。 

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