これぞ脚本家・北川悦吏子の真骨頂! 『半分、青い。』からさらにパワーアップした『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』をホメゴロス!
北川大シェフといえば、
《私はリサーチしないよ。極力。しても一回。なぜなら、想像の翼を折るから。》
《過剰な取材や、人と話すことは、しないようにした。その時、自分の感じることに集中しようとした。そこが、起爆装置。》
《いつもドラマや映画を作るために、リサーチをしているだろう、情報にアンテナを張るだろう、と言われますが、皆無です。てか、徹底して、一切、入れない。》
とTwitterで語るように、取材をせず、関連資料も調べずに、内から湧き出るインスピレーションとフィーリングだけでホン(脚本)を書くことでおなじみだ。いやー天才ですよね。そして、他者の意見を多少参考にする場合も、
《ママ友に連絡しまくる私。生きた情報が欲しい!持つべきものは、ママ友!》
《ママ友情報、すごいっ。ありがたい。生きた情報。》
と、ママ友や近しい友人知人、岩井俊二、家族の話にだけ耳を傾けるようだ。半径数メートル領域内でのヒアリングと、あとは、もはや常態化しているTwitterでのファンからのリプライによる“ネタ集め”。これらが大シェフの“気まぐれ下ごしらえ”の全てだ。
「時流にキャッチアップしないわ調べないわ作劇」の結果として、第2話で、空が大学の同級生で隠れオタクの光(岡田健史)に言った「何で(カラオケで)米津玄師歌うの? 『ジャパリパーク』(『けものフレンズ』の主題歌)歌えばいいじゃん」という台詞が登場した。この「米津玄師=ウェイ系が歌うもの」と決めてかかった台詞に、SNSやネットでは総ツッコミが上がった。周知の通り、米津はかつて「ハチ」という名義で初音ミクを用いた楽曲を多数制作し、ニコニコ動画に投稿してその才能が知れ渡った逸材だ。つまり、オタク票を稼いでのキャリアスタートだったのだ。数多のタイアップをこなし、大メジャーとなった現在でも、彼を「オタクの星」のようにとらえているファンは少なくない。
米津はその顕著な例だが、文化・芸術・芸能においてメインとサブの境目がシームレスになって久しい。というか、メインカルチャー/サブカルチャーという区別すら、すでに機能していないのかもしれない。多様化した今日では、人も物も「いずれの要素も兼ね備える」というケースが増えている。まあしかし、「根明」と「根暗」の二元論が支配していた80年代前半にキャンパスライフを謳歌し、脚本家として“華々しい”キャリアを積み、「恋愛の神様」と呼ばれて長年“万能感”にひたり続けてきた大シェフとしては、「オタク問題がデリケート? 知るかよ」ぐらいのノリなのだろう。常人ならば、こんなにツッコミの入りやすいテーマ、 よほど入念に調べる気概がなければ扱わないところ、娘と岩井俊二へのヒアリングだけで挑む “ベテラン”の風格。いやはや、あっぱれというほかない。