これぞ脚本家・北川悦吏子の真骨頂! 『半分、青い。』からさらにパワーアップした『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』をホメゴロス!
当然『半分、青い。』との共通点も多い。まず、片言・ぶつ切りの話し方や「〜だ」「〜なのか?」など、吹き替え版『E.T.』のような台詞使い。『半分〜』では鈴愛だけだったが、『ウチ彼』では碧と空、母娘揃ってこの口調である。大シェフの日常ツイートを見れば、これらは北川母娘の普段の会話を色濃く反映させたものであることがわかる。プライムタイムのテレビという大舞台で日記を書く軽やかさ。さすがトレンディドラマで大天下をとった大シェフである。
『半分〜』では律(佐藤健)が、『ウチ彼』ではゴンちゃん(沢村一樹)が担う、ヒロインの幼なじみであり「お助けおじさん」的キャラクターが存在するのも同じだ。大シェフが中学生の頃から大ファンだといい、『半分〜』に鈴愛の祖父・仙吉役で出演した中村雅俊はゴンちゃんの父・俊一郎役で続投。息子に次いで「お助けおじさん・その2」的な存在だ。つまり大シェフの依り代である碧は、(大シェフが思う)“イケメン”父子二代から「褒めて支えて慰めて」をやってもらっているという格好である。また、『半分〜』では律の実家、『ウチ彼』では碧の実家について、「昔は皇室御用達の写真館だった」という設定が2作連続でお目見えする。よっぽど大シェフお気に入りの小ネタなのだろう。
「お母ちゃんの中には3つのあんたも、5つのあんたも、13歳のあんたも、全部いる」
これは『半分〜』で晴が鈴愛に向けた台詞。
「ここには、この家には、3つのあんたも、9つのあんたも、みんないるから」
こちらは『ウチ彼』で碧が空に向けた台詞だ。おそらく大シェフが実の娘に抱く思いをストレートに書き表したのだろう。普通の脚本家なら、「思い」や「体験」という“原料”があるなら、それを技術で加工しアレンジを加えて、普遍化ないしは登場人物の言葉として成立させるだろう。だから元は同じ“原料”だったとしても、まったく違う一皿(シーン)となって視聴者に供されるものだが、「普通とは違うのだよ、普通とは」とばかりに、灰汁抜きしていない素材の味わいをそのまま出す大シェフの潔さに痺れる。
大シェフによる恒例のイニシエーションも両作品で行っている。『半分〜』ではカエル柄のワンピースを永野芽郁に授け、『ウチ彼』では大シェフ大のお気に入りのブランド、TOGAのニットを浜辺美波に授けた(こちらは《あげたわけではない。衣装貸し出し。》とのこと)。おいでやす小田なら「断れるか〜〜〜ッ!!!!」とマンキンのツッコミを入れるところだろう。ちなみにこれに絡めて、碧が空に向けた「そのニット、永野芽衣が紅白で着てたTOGAだよね」という、内輪ノリの最たる台詞がある。テレビのこちら側は「それ必要あります?」という気持ちでいっぱいになるが、私物を貸し出してまでこの台詞が書きたくてしょうがなかったようだ。
このように、『半分、青い。』と『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』では、場所を移転して店内の雰囲気は変われど、相変わらず同じ“食材”をネタケースに並べてあるといった風情だ。大シェフが90年代前半以前の感性で集めた大ネタ・小ネタに、調理も加工もほぼ施さず、ワイルドに盛り付けて「うちはこだわりの食材使ってるんで、塩(食卓塩)だけでいってください」とばかりにドーンと客前に出す「大シェフの気まぐれサラダ」。この自信と大胆さは賛仰に値する。
さらに今作では、これらの「おなじみネタ」に加え、「えっとねえ、あのねえ、ヒロイン(≒私)はねえ、菅野美穂でねえ、麻布十番の商店街に生まれ育ってねえ、老舗写真館を畳んだ両親はスイスに行って山の写真を撮って暮らしててねえ、仕事でもプライベートでもイケメンに囲まれてねえ」と、大シェフの気分がアガるトッピングをメガ盛りにしてあり、いつまでも少女の心を忘れない大シェフによる夢小説のような味わいが、より強まっている。