コラム
高橋ユキ【悪女の履歴書】

女詐欺師が語った「男性に愛されるための研究」と「男に可愛がられた私」の記憶【熊本:つなぎ融資の女王】

2020/12/20 18:00
高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

世間を戦慄させた事件の犯人は女だった――。平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。自己愛、欲望、嫉妬、劣等感――罪に飲み込まれた闇をあぶり出す。

【熊本:つなぎ融資の女王】

 早朝の羽田空港。スーツ姿の捜査員に伴われ、タイから強制送還されたその女がが姿を見せると、報道陣からどよめきが起こった。朝はまだ肌寒い4月にもかかわらず、膝上20センチのショートパンツから、美脚があらわになっていたためだ。

 「62歳の聖子ちゃん」ともいわれたその女は、東京の男性から7000万円近くを違法に出資させたとして国際指名手配されていた。逃亡先のタイでは色白ぽっちゃりフェイスに松田聖子風のヘアスタイル、オフショルダーの白いブラウス、生足にショートパンツという出で立ちで、さらには“38歳”と年齢を偽っていたという。

 そんな彼女、山辺節子(逮捕当時62)は熊本県の地元では「姫御殿」と呼ばれる家に住んでいた。「つなぎ融資の女王」とも呼ばれる節子は、言葉巧みにだまし取った金をタイ人の男性(35)に貢ぎ、そしてその前には、フィリピン人男性の恋人にも、多額の金を貢ぎ、家族の生活費まで払っていた。最終的に節子は、1億7700万円をだまし取ったという詐欺罪で熊本地検に起訴され、羽田に降り立った1年後の2018年4月19日、熊本地裁で懲役7年の判決が言い渡された(求刑懲役10年)。控訴せず、刑は確定している。

▼前編はこちら

TOKYO REPOTERより

「つなぎ融資の女王」誕生の一言

 節子は30歳になる頃、熊本市内にスナックを開いた。盛況だったが、数年で閉じる。

「離婚後、仕事はしていないと聞いていましたが、いつもジャガーに乗っていました。いつもノースリーブなので、寒くないのかと尋ねると、後部座席に毛皮のコートがあるから、と。支払いはカードではなく現金。財布は万札で膨らんでいて、なぜ仕事をしていないのにお金を持っているのか不思議でした。当時から男に貢がせているといううわさはありました」(同級生)

 節子が47歳の時に完成した「姫御殿」は「豆御殿」とも言われているという。男たちに貢がせて建てた御殿という隠語なのだという。

 噂の絶えない彼女はスナックと並行して焼却炉の製造販売会社を興していたが、資金繰りに行き詰まり、2005年に破産。選挙のウグイス嬢やイベントの司会で生活費を工面するようになったものの、派手な生活はやめられず、ついにはヤミ金にも手を出すようになった。

 ほどなく、投資詐欺に手を染める。

「2011年秋、ヤミ金の支払いが限界を迎えました。しかし、知人からお金を借りることはプライドが許しません。私は知人の1人に“お金を貸して”と言うかわりに“30万円投資してみない?”と言ってしまったのです」

 判決を控えた節子は、週刊誌の取材に対して、自ら「つなぎ融資の女王」誕生の瞬間をこう振り返った。

 ところが、当初は出ていたと言う配当は2015年には止まり、その年の秋以降、節子は地元から姿を消した。フィリピンやタイに渡り「フィリピンのコンドミニアムを売ってお金を返すので先に(出資者の)4%を送って」などという口実で金を集めては、現地の30代ホストに貢いでいた。

 週刊誌に寄せた手記で、節子は自分には幼い頃から“ある能力”が備わっていたとつづっている。

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