難関私立中に合格したのに、“中堅大学”に進学……4浪の息子は「中学受験の燃え尽き症候群」だった
みゆきさん(仮名)は10年前の難関X中学での入学式のことを今も思い出すという。一人息子の海斗君(仮名)は、3年間の塾生活を頑張り抜き、無事に第1志望校のX中学に合格。母子は誇らしく、入学式に臨んだそうだ。
「思い返せば、入学式の日に嫌な予感はあったんです。校長先生が祝辞として、確か『君たちは我がX学園の誇り高き同志です。今日から頑張って勉強し、6年後、必ずや東大をはじめとする難関大学に入り、自分の夢をかなえてください』とおっしゃったからです。海斗は、これで最初の一撃を受けたと思います」
当たり前のようではあるが、中学受験は選抜試験をパスした者が合格を得る。つまり、その学校で学ぶに困らない学力を持つ者たちが、4月から肩を並べるということだ。授業は、試験を突破できるだけの学力ラインから、上へ上へと知識を積み重ねていくイメージで進行し、生徒たちは6年間を駆け抜けることになる。
「中高一貫校は先取り授業をしているので、高2までの5年間で高校課程を終えてしまいます。入るまで、深くは考えていなかったんですが、それって、一度つまずくと、付いていけないってことなんですよね……」とみゆきさん。
海斗君は中1の梅雨あたりに体調を崩して、数日間、学校を休んだそうだが、学校に復帰すると、もう授業に付いていけなかったのだという。
当然、海斗君は補習の常連になり、部活動にも思うようには参加できなくなった。そんな状態で、中2の秋になると、今度は担任の先生から「このままでは高校には上がれない」と肩叩きをされるようになる。
焦ったみゆきさんは、海斗君に無理やり家庭教師をつけて、どうにか進級基準を満たそうとしたそうだ。
この頃、海斗君は頻繁に「ママの嘘つき! 中学に入ったら、勉強しなくていいって言ったくせに!」とみゆきさんに怒っていたらしいが、「学校を変える?」と聞くと、「絶対に嫌だ!」と首を横に振るばかりだったという。
「このあたりが難関校の哀しさですよね。あのX学園の生徒だという看板だけが、海斗の拠り所ですから……。どうにか高校に上がったものの、さらにスピードを上げる授業進度に付いていけるわけもなく、海斗は完全にやる気を失っていました」