コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

「お父さん、亡くなったんですか?」知らないご近所の方の一言に「本当に救われた」と娘が思うワケ

2020/10/11 18:00
坂口鈴香(ライター)

 葬儀が終わり、母の典子さん(仮名・63)が家の前を歩いていたら、知らないご近所の人に声をかけられた。

 「ここのお父さん、亡くなったんですか? いつもうちに来て、いろいろお話していたんですけど、ずっとニコニコして、良い方でしたよ」と言われたという。

「その言葉で肩の荷が下りた、と。父が徘徊して、ご近所や警察から叱られたり、『ちゃんと面倒をみろ!』と怒鳴られたりして、家でヒステリックになっていた時期もありました。私も、近所に味方はいないと思っていました。でも父を『良い方』と言ってくれる人もいたんだと、その一言で本当に救われました。母もつらかったと思うし、それを見てきた私もつらかったので」

「父が今元気だったら、一緒にバイクに乗りたかった」
「重機オペレーターだった父と一緒に、庭もつくりたかった」
「いつも人の喜ぶ顔が見たくて、人のために一所懸命だったな」
「ものづくりが好きだったな」
「動物が好きだったな」

 一緒にやりたかったことが次から次へと出てくる。

「父の死から葬儀まで5日間くらいあって、父は新しくなった実家にゆっくり帰ってこれたし、久々に家族だんらんができてよかったと思います」

 親はいつも近くにいて当たり前の存在かもしれないけれど、そうじゃない。失ってからでは遅い。いつでも言えると思わずに、今感謝の気持ちを伝えてほしいと、麻美さんは父の話を締めくくった。

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2020/10/11 18:00
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