オンナ万引きGメン日誌

万引きGメンがつい反応する「エコバッグの持ち方がおかしな人」……デカいバッグで高級品を盗みまくる、居酒屋店主の呆れた手口

2020/09/26 16:00
澄江(保安員)

カゴと体の間に「大きく口の開いたトートバッグ」を所持

(あれ、あの人……)

 午前中のピークを迎え始めた店内を巡回していると、胸にスワロフスキーで描かれた髑髏のワンポイントがある黒いTシャツを着た男が目に止まりました。どことなくネプチュ-ンの堀内健さんに似ている40歳くらいの男が、胸にある髑髏に劣らぬ暗い表情で、高価な本マグロの切り身を3パック重ねて、一度に取る動きが気になったのです。ホリケンさんの持ち物を見ると、カゴと体の間に大きく口の開いたトートバッグを所持しており、その中を垣間見れば、生鮮食品のパック群が無造作に沈められている様子が見てとれました。
(もう、やっているのかしら?)

 そのまま目を離さないでいると、すぐに件の死角通路へと向かったホリケンさんは、カゴに入れることなくわし掴みにしていたマグロのパックを、一気にバッグの中へとねじ込みました。少し慌てた様子でバッグの中に手を入れ、空間を作るように整理してみせると、異常なほどの早足で鮮魚売場に戻っていきます。

(まだ、やるわね。しっかり準備しておいてよかった)

 そこでさらにスモークサーモン、タイ(一尾)、わかめなどを手にして、それらを同じように死角通路に持ち込んだホリケンさんは、全てをバッグに隠し終えると、慎重な面持ちでレジを通過し、わざとらしくサッカー台を経由して外に出て行きました。おそらくは客のフリをすることで精一杯なのでしょう。追尾には、まるで気付いていない様子ですが、相手が若い男性なので、反撃されるリスクを下げるため、人通りのあるところまで余計に歩かせてから声をかけます。


「お客さん、すみません。お店の者です。お会計済んでないもの、たくさんございますよね?」
「はあ? なにを言っているんですか、全部払いましたよ。勘弁してくださいよ」
「ええ? レシートは、お持ちですか?」
「あれ、どうしたっけな? 捨てちゃったかな?」

 払っていないのだから、レシートなどあるはずもありません。でも、ここで強く否定してしまうと逃走を図られるような気がしたので、ホリケンさんの言葉を尊重します。何気なくバッグに目をやれば、トートバッグの開口部からパック詰めのタイが顔を出しており、助けを求められているような気持ちになりました。

「では、探させてください。なければ、すぐに確認できますから」
「はあ。なんでこんなことに……」
「見ていましたけど、お支払いになっていないですよ。もし間違えていたら、謝りますので」
「……………」

 サッカー台の下に設置された全てのゴミ箱から、捨てられたレシートをもれなく取り出して確認してみても、安価な商品を購入したレシートばかりで、該当するレシートは見当たりません。埒が明かないので、逃走を防止する意味合いも含めて事務所での精算確認を求めると、いまにも逃げ出したそうな顔をされましたが、暴れることなく応じてくれました。事務所に入ると、事務作業をしていた店長が、ホリケンさんの顔を見て驚かれます。

新品本/万引きGメンは見た! 伊東ゆう/著