オンナ万引きGメン日誌

万引きGメンが語る「YouTuber・へずまりゅう窃盗事件」……スーパーのシャインマスカットを“勝手に食した”老婆の思い出

2020/09/12 16:00
澄江(保安員)

手の中の巨峰を口に放り込み「これ、甘くておいしいのよ」

(ここで声をかけないとダメね)

 たまたま近くで品出しをしていた青果担当の社員さんに、そっと声をかけて老婆の行為を見てもらうと、どことなくホリエモンさんに似ておられる顔を途端に紅潮させて言いました。

「あの婆さんだったのか。ふざけやがって!」
「被害品がわからなくなっちゃうんと困るので、ここで声をかけちゃいたいんです。立ち会ってもらってもいいですか?」
「いや、いつもやられているから、俺がいくよ。取られたやつ、集めといて」

 平気な顔で巨峰に手を伸ばす老婆に、早足で詰め寄ったホリエモンさんが、少し大きめの声で老婆に声をかけます。

「お客さん、それ困るなあ。葡萄はね、1粒でもむしられちゃうと商品にならないんですよ。全部お買い上げいただけますか?」
「へ? これくらい、いいじゃないか。ケチな人だねえ」
「そういう問題じゃないでしょう。商品を壊しておきながら、何を言ってるんですか」
「え? あたしが、何を壊したっていうの?」


 2人の声が大きくなるにつれて周囲の視線が集まり始めたので、棚に残る被害品を手早く集めて、事務所まで来てくれるよう促します。渋々と動向に応じた老婆は、手中に残る巨峰の粒を複数個まとめて口に放り込むと、ホリエモンさんの袖口を掴んで歩き始めました。

「お金払ってないのに、なに食べてんだ?」
「これ、甘くておいしいのよ。皮ごと食べられるの」

 事務所の応接セットに座ってもらい、むしり取られた葡萄の粒を数えてみると、ポリ袋の中からシャインマスカットが7粒、巨峰が2粒出てきました。これまでに何粒か食べられてしまっていますが、被害は葡萄本体のほうなので、あまり関係ありません。被害は、シャインマスカットが4房(1房1,580円)、巨峰が2房(1房980円)、トマト(100円)の計7点、合計8,380円(税別)に上りました。数粒の葡萄を食した結果と考えれば、少し高くついたように感じられますが、同情する理由にはなりません。所持金を聞けば、2,000円ほどしか持っておらず、自力での解決は難しそうです。

新品本/万引き老人 「貧困」と「孤独」が支配する絶望老後 伊東ゆう/著