老いゆく親と、どう向き合う?

老人ホームの面会禁止で「罪悪感から解放された」――義父母の介護と障害のある娘、新型コロナが変えた“距離”

2020/08/16 18:00
坂口鈴香(ライター)

子どもから離れられない

 そんな井波さんには今、別の葛藤があるという。

 井波さんは圭さんが18歳で特別支援学校を卒業したころから、圭さんを社会に託して、親がいなくても生きていけるような施設を探すことを考えていた。自分たち夫婦が老いたり、どちらかが亡くなって、ひとりで圭さんの世話ができなくなったりしたとき、圭さんの姉である長女に心配をかけたくないという思いがあったのだ。

 それがこのコロナ禍で、心境に変化があった。

「福祉作業所に通っていた圭が自宅にいることになり、二人で過ごす時間が格段に増えました。圭が私の手の届くところにいる幸せを感じていることで、私のほうが圭から離れられなくなってしまっているんです。これから先、圭と一緒にいればいるほど、離れられなくなりそうな気がしています」

 いまや、圭さんと自分が一緒に入れる終の棲家はないかと考える始末だと苦笑する。


「圭にとっては、私が離れる方がいいのかもしれないと、頭ではわかっているんですが……」

(後編は8月30日公開)

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2020/08/16 18:00
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コロナが心の中を引きずり出してくれたのかも