サイゾーウーマン芸能テレビドラマレビュー『ザ・ノン』引きこもった僕の1年 芸能 『ザ・ノンフィクション』レビュー 『ザ・ノンフィクション』引きこもりがあぶり出す、それぞれの問題「父と息子とはぐれた心 ~引きこもった僕の1年~」 2020/07/27 19:17 石徹白未亜(ライター) 『ザ・ノンフィクション』レビュー 自分でやったほうが早くても、子どもにさせる意味 ヨウヘイはそれまで家で家事をしたことなどまったくなかったという。母親が家事を一切させず、朝は大学の授業に合わせて起こすなど、かいがいしく世話を焼いていた。それだけに、はぐれ雲に入所した当初は、やる気もなくもたついた手つきで配膳をし、皿洗いもふてくされながら乱暴にやっていたが、1年後は、手際よくおかずの味付けまでしていた。 家事は「できないことができるようになった」という達成感を味わいやすい。毎日のことなので、今日は卵がうまく焼けなかったから、明日は味付けや火加減をこうしてみよう、と試行錯誤もできる。清掃の家事は爽やかな気分にもなれる。それに学校の勉強は受験以降は役に立たないものも多いが、家事は生きていく上で避けられない行為だ。ヨウヘイが、家事をもっと早くやっていたら、状況は違っていたのではないだろうかと思った。 はぐれ雲を夫婦で運営し、家事を担当する川又佳子は、ヨウヘイの問題点を指摘するが、手は出さず、ヨウヘイに最後までやらせていた。自分でやったほうがよっぽど早く、ストレスもたまらないとわかった上で、あえて「見守り、やらせる」ことを選ぶ。 一方の母親は、父親が高圧的な分、私が優しくしてあげないと、と思っているように見えた。しかし、「過保護」も子どもから考える機会を奪う行為だ。両親ともヨウヘイを「見守る」ことができず手を出してしまっているのだ。 「親がやってくれるだろう」という子どもと「その通りやってしまう」親 番組後半、ヨウヘイと両親が面談したときに、父親は「(大学の復学について)親に言われたからやったといわれるのは嫌、自己責任で決めてほしい」と話していた。それまで両親は、ヨウヘイに手取り足取り介入して、「考えるな」とでもいうような教育をしてきたのに、ここで急に「自分で考えろ」と突き放す。 一方でヨウヘイは、面談に来た親を前に顔を露骨にこわばらせていたが、いざ就活を行うことになると、親にLINEで「スーツほしい そろそろ就活しようかな」と送っていた。両親の「自己責任で決めてほしい」という言葉と、それを受けたヨウヘイの「スーツほしい」という自発的な言葉は、家族全員のそれぞれの成長を感じさせるようにも見える。だが、自分で自発的にスーツを買うのではなく、「スーツほしい」とさえ言えば親が用意してくれるだろう、といまだヨウヘイが信じて疑いもしていないようにも見えた。 また親も、その連絡を受けたらスーツをヨウヘイのもとに即座に送る。ここは「自分で買ったら」、せめて「金は出すから自分で選んでみたら」ではないだろうか。「親がやってくれるだろう」と自分から動こうとしない子どもと、進んで「やってしまう」親。結局、親子の関係は根本ではあまり変わっていないようにも見えた。 ヨウヘイの引きこもりはキタノ家の父、母、ヨウヘイの三者それぞれに課題を突き付けていると思う。 来週は「おなかも心もいっぱいに ~はっちゃんの幸せ食堂~」。500円食べ放題の食堂を一人で営む85歳のはっちゃん。そんなはっちゃんと新型コロナウイルスの戦いの日々。 前のページ12 石徹白未亜(ライター) 専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。 記事一覧 X:@zPvDKtu9XhnyIvl いとしろ堂 最終更新:2020/07/27 19:17 楽天 自分の機嫌は「家事」でとる 食器洗った自分偉い、って毎回自己肯定してるよ 関連記事 『ザ・ノンフィクション』家族団結を説く父、コロナ感染で改心「お父さんと13人の子ども 後編~新型コロナと大家族~」『ザ・ノンフィクション』“家族結束”を説き、子どもの生き方を奪う父親「お父さんと13人の子ども 前編~7男6女 闘う大家族~」『ザ・ノンフィクション』マキとジョンが「やらせ」告発! 「アイドル」「農家の嫁」も番組側にクレームの過去『ザ・ノンフィクション』大家族モノと貧困のしんどさ「シングルマザーの大家族 ~パパが遺してくれたもの~」『ザ・ノンフィクション』言葉にしないで黙る彼女たち「19歳の漂流 ~妊娠…出産…家族を求めて~」 次の記事 志村けんさんドラマ放送で重岡がとばっちり >