オンナ万引きGメン日誌

レジ袋有料化で万引き多発中! 「1枚5円」を絶対に払いたくない老婆との不毛すぎる戦い

2020/07/26 16:00
澄江(保安員)

「家から持ってきた袋よ」勝手に興奮する黒い老婆

「お客さん、こんにちは。お店の者です。実は、7月からレジ袋が有料になりまして……」
「知っていますよ。で、なんですか?」
「そちらの代金、お支払いいただけなかったので、お伝えしています。今回は……」
「はあ? これは家から持ってきた袋よ。変な言いがかりつけないでよ」

 やんわりと注意しようと試みたものの、勝手に興奮してしまった黒い老婆は、周囲が振り返るほどの大声を出し、否認してみせました。こうなると、あとで何を言われるかわからないので、白黒はっきりつけなければなりません。

「いえ、私、全部見ていましたから。今回はいいですけど、次回からは、きちんとお支払いいただけますか?」
「ちょっと、あなた。毎日来ている客に向かって、その言い方は、なによ? ちょっと店長を呼びなさい」

 自分の行為を棚に上げて居直られたので、やむなく事務所に連れて行き、店長に事情を説明します。すると、いまだ興奮状態にあるらしい黒い老婆が、私の話の腰を折るようにまくし立ててきました。

「店長さん、この人ね、まるで私がレジ袋を盗ったみたいな言い方するのよ。私、長年通っているのに、ひどいじゃない」
「でも、お支払いいただいていないですよね?」
「はあ? これは持ってきた袋だって、さっきから言っているじゃないの!」


 完全に居直られてしまい、どうにも話にならないため、業を煮やした店長は警察に通報することを決めました。

「事件です」
「なにが事件よ、いい加減にしてよね!」

 電話口で通報を始めた店長の言葉を聞いた黒い老婆が、間髪入れずにツッコミを入れてきます。警察官が到着するまでの間も、執拗に私たちを責め続けた黒い老婆は、もし証拠がなかったらどうしてくれるんだと、脅迫めいたことまで口にしました。ここまで言われてしまえば、どうにも黙っていられません。

「証拠があった時は、どうされるおつもりですか?」
「そんなの、あるわけないから関係ない」

 どこまでも居直るつもりらしいので、怒りを堪えながら警察官の到着を待っていると、まもなくして背の高いプロ野球選手のような体をしたTOKIOの長瀬智也さんのような雰囲気を持つ男性警察官が、とても可愛らしいアイドル顔の女性警察官を伴って現れました。俳優さんと見紛うほど素敵な2人を前に、刑事ドラマに出ているような気持ちで状況を説明します。


「盗んだのは、レジ袋だけですか?」
「はい。注意で済ませようと声をかけたら、大騒ぎされてしまいまして……」
「被害額は、5円ってことですね。こんなに安いのは、初めてだなあ」

新品本/万引き老人 「貧困」と「孤独」が支配する絶望老後 伊東ゆう/著