オンナ万引きGメン日誌

レジ袋有料化に「おかしいだろ」と激怒! クレーマーはその後「エコバッグ」を万引きして……!?

2020/07/11 16:00
澄江(保安員)

盗んだ理由を聞いても、意味不明なことを話すばかり

 この日の被害は、計23点、合計8,000円ほどとなりました。

 博士の所持金は、1,000円足らずで、全ての商品を買い取ることはできません。近くのコーポに1人で暮らしているそうで、身寄りはなく、商品代金を立て替えてくれる人もいないというので、犯歴次第では逮捕もあり得る状況と言えるでしょう。盗んだ理由を聞けば、マネージャーさんに話してあるから大丈夫なんだと、意味不明なことを真剣な表情で話しています。

「今日だけは、再会したくない」

 班長の言葉を思い出して、ちらりと時計に目をやると、すでに15時を少し回っていました。このまま被害届が出されれば、相当の時間がかかるに違いなく、今後の展開が気になります。

「班長さん、ごめんなさい」
「なんで謝るの? ケガがなくて、なによりでしたよ」
「お時間は、大丈夫ですか? 長くなっちゃいますかね?」
「それは、どうだろう。この爺さんの、歴次第だよね」


 犯歴照会をしたところ多数の前科が判明したようですが、それと前後して博士が認知症であるという情報も入ったそうで、今回は立件することなく厳重注意で済ませる流れになりました。そんなことまでわかるのかと班長に尋ねると、少し前にも警察の世話になっていたそうで、その扱い時に得られた情報なのだと話しています。

「またやっても、同じ結果になるんですか?」
「善悪の判断がつかないって診断が出ちゃっていると、なかなか難しいよね。最近、多いんだよ。こういう人……」
「でも早く終わってよかった。危うく班長さんに恨まれるところでしたよ」
「お気遣い、ありがとうございます。正直、ホッとしました」

 安心した様子を見せた班長が、事務所から博士を連れ出すと、まもなく警察無線の着信音が鳴り響きました。班長が無線を受けると同時に、軍人の伝令に似た名調子が漏れ聞こえてきます。

「至急、至急……」
「また万引きか。参ったな……」

 すぐ近くの店における新事件発生の一報を受けた班長は、悲しげな苦笑いを浮かべて呟くと、明らかに重い足取りで博士を連行していきました。その背中に漂う哀愁のようなものが、同じ職業だった亡き夫を彷彿させ、私の胸を締めつけます。その日の夜は、数少ない写真に残る想い出に目を通して、夫の声を思い出しながら眠りにつきました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)


澄江(保安員)

澄江(保安員)

万引きGメン(保安員)歴40年以上。スーパーで品出しのパートをしている時に、万引き犯を捕まえたことがきっかけで、この世界に。現在も週5日は現場に立っている。

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最終更新:2020/07/11 16:00
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