老いゆく親と、どう向き合う?

「突然大声を上げて怒り出す」要介護4の父と生活保護の兄……30代女性が背負った“家族”と“介護”の現実

2020/07/05 18:00
坂口鈴香(ライター)

兄とは距離を置いていた

 そんなとき、中村さんのもとに兄(43)が事故を起こしたという連絡が入った。

「兄は就職氷河期世代で、大学卒業後、就職がうまくいかず引きこもっていました。親が就職させようとしたのですが、それもダメ。借金をつくって親が肩代わりしたこともあります。兄の問題で家族会議をしても、父は怒る、母は兄をかばう。私が冷静に場を仕切る、というような関係だったんですが、その後、私は海外に行ったこともあり、兄とは距離を置いていました。日本に戻ってきたときには、兄は関西にいて、生活保護を受けながら、自分のように生きづらさを抱えている人にカウンセリングのようなことをしたりして生活していたようです。自分が生きづらさを抱えている当人なんですけどね(苦笑)。それでも生活保護を受けながら、なんとか自立して暮らせてはいたんです」

 そんな兄を心配した晃子さんが、家に戻したいと言ったこともある。中村さんは、そうなると晃子さんが兄を支援しすぎてまたダメにしてしまうだけのような気がして、「兄を戻すのなら、もう私は二度とかかわらない」と言って反対したという。

「そういうわけで、兄は関西で暮らしていたんですが、警察から『兄が事故で入院している』という連絡が来たんです。自転車による自損事故だったようです。駆けつけてみると、かなりカルチャーショックを受けました。警察の方によると、兄が暮らしている場所は関西のなかでも特に治安の悪い地区だということでした。私が働いていた国も、先進国とは言えませんが、そういう世界ともまた違う。そんな場所で兄は暮らしていたんです。おまけに、事故によって外傷性クモ膜下出血を発症していました。幸い、そう重症ではなく、リハビリをして退院することができました。本人は昔より記憶力がなくなったと言っていますが」

 兄よりも8歳も年下ながら、しっかりした妹だ。しっかりせざるを得なかったというべきか。ともかく、兄の問題はこうしてなんとか落ち着いた。と思う間もなく、今度は母・晃子さんの体調が悪くなる。博之さんが倒れて3年後、昨年の頭のことだった。


――続きは、7月12日(日)更新

 

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2020/07/05 18:00
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