コラム
“中学受験”に見る親と子の姿

医者になるための中学受験で挫折! 大学受験“全滅”、専門学校へ進んだ「開業医の息子」の反抗

2020/06/14 16:00
鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

 そして、また受験シーズンがやって来たが、斗真君はどこの大学も受けなかったという。激怒する父親とは顔を合わせたくはなかったらしいが、祖父が「顔を見せてくれ」と言ってきたため、久しぶりに帰省したそうだ。

 その際、祖父が「斗真、そう言えば、お前は小さい時から、何になりたいとかいう夢を言ったことがなかったな……。言ったことがないのではなく、じいちゃんたちが言わせなかったんだな。悪かったな……。斗真、お前は何になりたいんだ?」と語りかけてくれたので、斗真君は「料理人になりたい」と生まれて初めて、自分の夢を口にしたという。

 父親とは、そのまま疎遠になってしまったそうだが、祖父母の援助で、斗真君は料理の専門学校を卒業。尊敬する料理長がいる洋食屋さんで修行の日々を送っている。

 先日、斗真君は体が弱ってしまった祖父のためにコンソメスープを作って、病院に持って行ったらしいが、祖父母がとても喜んでくれたという。

 斗真君は当時のことを次のように振り返る。

「もし、あの時、おじいちゃんが『何になりたいのか?』と聞いてくれなかったら、僕は今頃、引きこもりになっていたかもしれません。どうせ、何を言っても、この家では通用しないって思っていたんですよ。でも、今になってみれば、自分が勝手にそう思い込んで、殻に閉じこもって反抗してただけかもしれません」

 そばにいた斗真君のお母さんがこんな話を教えてくれた。

「あのポットに入ったコンソメスープね、実はお父さんにも飲ませたの。そしたら、お父さん、『意外とうまいな』ですって。よかったわね、斗真」

 斗真君の戸惑ったような、はにかんだような笑顔が印象的だった。

鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

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湘南オバちゃんクラブ

最終更新:2020/06/14 16:00
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