コラム
【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

「民間から皇族へ!」“ニセ天皇”一族、セレブリティを巻き込んだデタラメ“家系図”【日本のアウト皇室史】

2020/05/23 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

堀江 そして、請願書は明治天皇の側近中の側近である徳大寺実則(とくだいじ・さねつね)が受け取るところまで行ったことが確認されています。徳大寺は名門の公家出身で、明治天皇のもとで内大臣、そして侍従長を兼任しています。そして天皇だけでなく、宮中全体から厚い信頼を得ていました。

――そんな身分の高い人にまで届いてしまったのですね……。

堀江 かなりの異例と言えると思います。明治時代当時の宮中は、身分制度が非常に厳しいのです。たとえば、「天皇がお目覚めになった」という毎朝の連絡事項ですら、天皇のそばで寝ずの番をしていた権典侍(ごんのてんじ)など上位の女官が自分より少し下位の女官に、その女官はさらに自分より少し下位の女官に……といった形で伝言しあって、初めて宮中全体に情報がいきわたるという具合でした。

――身分が低い者が、身分の高い者と直接やりとりすることは許されない?

堀江 なにかにつけてそうなんです。というか、身分の高い者も、低い者との直接接触が禁じられているのです。

 だから請願書を上位の人に気軽に渡せるような雰囲気は、宮中には絶対にありません。熊沢家には宮中にはなんのコネもない状態。つまり無位無官の者が天皇の侍従長に請願書を渡すとなると……それはそれは莫大なお礼金の類が、何人もの仲介者に発生していたと思われます。

 それでもこの頃、明治時代の歴史学会で、北朝と南朝、どっちが正統の皇室か? という問題が盛んに議論されていたといいます。判断は明治天皇に委ねられ、天皇は「(ご自分の先祖にあたる)北朝ではなく南朝が正統である」と宣言しているんですね。これは歴史的な事実です。

――ええっ、じゃ、熊沢家は……。

堀江 そう、これをチャンスだと感じたようです。大金を費やしてでも、このビッグウェーブを逃すな! と思ったに違いない。だからこそ、なんとか明治天皇の最側近である徳大寺侍従長にまで請願書を届けるよう画策し、そして成功させるに至った。

 いいところですが、次回に続きます。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2020/05/23 17:53
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