「事故物件」はイメージアップできるのか? 不動産業界が考える「孤独死増加」問題
事件や自殺、孤独死が発生した物件……通称「事故物件」。不動産会社は、買主や借主に、事故物件であることを事前に告知しなければいけないというが、実はその告知基準が曖昧であることをご存じだろうか。前編では、事故物件を専門に取り扱う不動産会社「成仏不動産」に、曖昧だという告知の実情を解説いただいたが、後編では、今年国土交通省がガイドライン策定に乗り出したことを受け、どのような内容が望ましいのか、見解を聞いた。
花原浩二氏:「成仏不動産」を展開する株式会社NIKKEI MARKS代表取締役
佐藤祐貴氏:「成仏不動産」事業部部長、遺品整理アドバイザー
事故物件の告知ガイドライン「全て告知する」が望ましいワケ
ーーケースがあまりにも多岐にわたりすぎていて、国交省が告知のガイドラインを定めるのは、かなり難しいのではないかとすら思えてきます。
花原浩二氏(以下、花原) 根本的には、告知をする・しないかは、売主・貸主側ではなく、その情報を知って買うか借りるかを判断する買主・借主側の視点に立って考えるべきだと思っています。そうなると、原則「全て告知する」というガイドラインが望ましいと私は考えます。もちろん、50年、100年前のことも告知するのかとなると、ある程度の線引きは必要となるでしょうが、例えば「自殺は発生から10年、他殺は発生から20年まで告知する」というガイドラインを作ったとして、21年経過した段階で、告知されないまま物件を買った・借りた人はどう思うのか……と。もし大島てるさんのサイトなどでその事実を知ったとき、「だったら買わなかった・借りなかった」と、嫌な思いをするかもしれませんよね。不動産会社側は「ガイドラインで20年と定められているので」と言うことでトラブルは回避できますが、買主・借主側の視点に立つと、何の問題解決にもなっていません。
ーー全て告知した上で、判断を買主・借主側に委ねるということでしょうか。
花原 そうですね。実際に人が亡くなった物件というのはこの世にたくさんあるのに、それを隠そうとするのはどうなんだろうと思います。逆に全てを告知することによって、過去に人が亡くなった物件に住むということが「当たり前」になっていくのではないかとも感じるのです。全て告知したほうがクリーンですし、それが不動産の本来あるべき姿だと思います。
成仏不動産では、これまでひとくくりにされていた事故物件を、「1.お墓や火葬場、葬儀場などが見える物件」「2.共用部分やほかの部屋などで事故があった物件」「3.発見まで72時間以内の孤独死・病死物件」「4.発見まで72時間以上の孤独死物件」「5.火事や事故で人が亡くなった物件」「6.自殺物件」「7.殺人物件」の7区分に分け、紹介をしています。これに、「何年前の出来事か」を補足することで、買主・借主側の物件選びがしやすくなるのではないかという考えがあるんです。
ーーただ、物件のオーナー側からすると、全てを告知すると、不動産の価値が下がる可能性もあるので、避けたいと思ってしまうかもしれません。
花原 確かにその問題はあるので、不動産会社側が流通を促進させる仕組みを作るなど、フォローしていかなければいけないと思います。例えば、成仏不動産では、事故物件であるマンションの一室の内部を、コンクリート打ちっ放し状態のがらんどうにし、「イチから家を作ってもらうDIY物件」として超格安で販売するという企画を行っています。全てを告知して正直になる、加えて、事故物件のイメージアップを図り、オーナーさんに損をさせないようにすることも重要と考えています。
そもそも、事故物件は不動産の価値が下がると言いますが、現状、事故物件がどれくらいで売れるのかをわかっている人がほとんどいません。というのも、事故物件の取引事例を収集しているところがないので、データがないんですね。そうなると、事故物件を所有しているオーナーさんが「売りたい」と思っても、まず相場がわからない。わからないから確実に売るために、低めの価格になってしまうんです。先ほど触れた「事故物件を7つの区分に分けること」はここにも関係していて、「この区分の事故物件はいくらくらいで売れる」というデータを収集することで、売主側も相場に見合った価格で物件を売れるようになるのではないかと考えています。