老いてゆく親と、どう向き合う?

「母を見ると、もう別人だった」ギャーっと叫んで暴れる姿に、娘は……介護の修羅場

2020/04/19 18:00
坂口鈴香(ライター)

ギャーっと叫んで暴れるばかり。別人だった

 直美さんは、もう一度八重子さんに生きる喜びを与えたいと思った。脳梗塞で入院した病院の理学療法士にリハビリをしてもらえば、再びリハビリへの意欲が湧くのではないかと考え、手続きを進めていた直美さんだったが、八重子さんの様子がおかしいことに気づいた。

「リハビリしてもらえるよと言っても、あまり喜ばないんです。さらに頭がぐちゃぐちゃしていると言い出しました。ある日私が仕事から戻ると、父が『母の様子がおかしい』というんです。母を見ると、もう別人でした。呂律は回らないし、ギャーっと叫んで暴れるばかりで、立つこともできませんでした」

 救急車を呼ぼうとしたが、幼い孫を謙作さんに任せることに不安があり、娘のひとみさん(仮名・27)が仕事から戻るのを待つしかなかった。

「ようやく病院に連れていったところ、また脳梗塞を起こしていたことがわかりました。そのうえ十二指腸潰瘍にもなっていて、出血していることもわかり、その治療を終えてからでないと脳梗塞の治療はできないとのことでした。これらの治療を終えて再びリハビリ病院に転院したところ、今度はてんかんの発作を起こしたんです。20年くらい前に良性の脳腫瘍で手術していたんですが、その後遺症ということでした」

 直美さんは、目まぐるしいこれらの経緯を鮮明に覚えているらしく、メモを見ることもなく話し続ける。聞いているこちらが混乱するほどだから、立て続けに両親を襲う病気やケガが自分の身に起こったとしたら、どれほど大変なことだっただろう。仕事だけではない。孫の面倒まで見つつ、よく乗り切ったものだと驚くが、これはまだ序章でしかなかった。


 

坂口鈴香(ライター)

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2020/04/19 18:45
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