「VERY」出産と女性へのメッセージを台無しにする、「ママになれた瞬間」企画の息苦しさ
新型コロナウイルス一辺倒の世の中でも律儀に発行されるファッション誌。子育て中の女性をメインターゲットに置く「VERY」(光文社)も例外ではなく、発売されたばかりの5月号では、春のファッションをがっつり紹介しています。相変わらず広告量も多いのですが、目に留まったのはオンラインショップ「ロコンド」のページ。「子どもはもちろんママにとっても運動会は晴れ舞台!この日のためにいろいろ準備したい」との言葉に、端的に言って「怖い」と感じました。運動会は親のためにあるわけではない、のでは……?
<トピック>
◎吉川トリコさんにきく 令和のいま、女であること
◎私がママになれた、あの瞬間。
◎今月の“いい妻”みっこ
吉川トリコ氏、女性たちへ「今の自分を否定しないで」
前置きが長くなってしまいましたが、今号の「VERY」では、ファッション企画よりも読み物ページが印象的です。
「吉川トリコさんにきく 令和のいま、女であること」は、『マリー・アントワネットの日記』シリーズ(新潮社)の著者・吉川トリコ氏へのインタビュー。吉川氏は、Webマガジン「考える人」にて連載中のエッセイ「おんなのじかん」で、自らの不妊治療体験を明かしています。
インタビューで吉川氏は、不妊治療がアンタッチャブルになっていること、毒親問題(マリー・アントワネットの母・マリアテレジアは娘への手紙に「妻たるもの夫に付き従え」「いつまでも可愛らしく愛される存在でいろ」と書いていた)に触れ、さらには、今もなお、この国には「子どもは早くたくさん産むのがよし」という風潮があると、とても的確に言及します。
「子どもを産むタイミングには、年齢や他の条件も関わってくるので、早いうちの情報収集をしておくに越したことはないと思います。でも、子どもが欲しいと思わない人も、欲しかったけれど授からなかった人も、今の自分を否定しないでほしい。この国は、表面だけ近代化しているように見せかけて、一皮剥いたら精神論やら家父長制やらでなんでも押し通そうとする『マジやばい後進国』なので、周囲からの価値観の押し付けにはどうか惑わされないでほしいです」
「VERY」読者たちの中にも、「子どもは早くたくさん産むのがよし」の風潮に苦しめられた、あるいは今も苦しめられている人がいるかもしれません。妊娠や出産や育児にまつわる知識や情報は持っておくべきだと思いますが、実際にどうしたいのか、どうするのかは自分が決めればいい。それなのに、「子どもがいないなんてかわいそう」「少子化問題に貢献していない」などと勝手に後ろ指を指したがる人間も世の中にはいます。
保守的な土地柄で育ったという吉川氏は、インタビューの最後、自身が10〜20代の頃は「このまま妊娠して結婚してもいいや」という少し投げやりな空気感があった(女は仕事でキャリアを積めないというあきらめによるもの)と振り返った後、「今、10代の女の子たちには、抜け出すチャンスがないなんて思わないで、と小説やエッセイを通して伝え続けたいと思います」と語ります。そのメッセージには心強いものを感じました。