「外出自粛」「休校」で懸念される虐待増加――“加害親の回復” なくして子どもは守れない
新型コロナウイルス対策により、世界各国で親も子も「外出自粛」が要請されています。親は感染の不安、就労や収入の危機などでストレスが倍増。子どもは家の中で十分に運動できず、友達とも遊べず、ストレス発散場がなくきょうだい間のケンカが頻発したり、親の指示に従わない行動を起こしやすくなるでしょう。高まったストレスに家族の孤立状況が重なると、しつけのつもりの体罰は歯止めを失い、エスカレートして“虐待”になりがちです。子育てに体罰を用いている親は、「体罰は決してしない」と自分に言い聞かせていないと、家族が危険な状態に陥るかもしれません。
「親の回復」を命じる法律は20年間立法に至らない
虐待問題の解決は、子どもの分離・救済にとどまらず、虐待をしている親の回復が必須です。2000年5月に成立した児童虐待防止法の立法過程で、私は国会参考人として、「虐待をした親の回復支援」を法制度の中に組み込む重要性を訴えましたが、法制化には至りませんでした。当時の日本には、親の回復支援の取り組みはゼロでした。たとえ親の回復支援を義務付ける法制化がされても、その受け皿が日本にはないに等しいという日本の現実。親への回復プログラムを開発し、日本におけるその方法論と経験のノウハウの蓄積を始めないことには法制化すらできないと痛感したことが、「MY TREE プログラム」の開発と実践の始まりでした。
以来19年間、虐待に至ってしまった親の回復を目的とする「MY TREE プログラム」を児童相談所の主催などで、各地で実施してきました。これまで1,138人の親がこのプログラムを修了し、虐待言動をストップしています。本当はもっと多くの親たちにプログラムを活用してほしいのですが、虐待に至った親に回復プログラム受講を命じる法律は、今もって日本にはないため、受講動機がない親に届けることができないでいます。
「体罰が必要」という他者の意識からも虐待が生まれる
深刻な虐待に至ってしまった親たちの“回復支援”は、子育てスキルを教える“養育支援”ではありません。母親支援でも父親支援でもなく、その人の“全体性”回復への支援です。虐待行動に悩む親たちは、今までの人生において他者から尊重されなかった痛みと深い悲しみを、怒りの形で子どもに爆発させているケースが多いです。加害の更生は、被害によって傷ついた心身の回復からしか始まりません。
その被害は、必ずしも家族内被虐待体験ではありません。虐待は親から子への世代間連鎖は3割で、7割は連鎖しないという統計数値もあります。虐待以外でも、人はいろんなところで傷つけられているのです。子ども時代のひどいいじめや性被害、親の依存症、大規模な自然災害被害、教師の体罰など。身体的虐待の発生は、親の抱える問題だけでなく、「体罰は必要」という根強い社会意識も影響するのです。