なぜファッション業界は「セクハラが多い」のか? ストライプ社トップの騒動は「珍しくない」
では、ファッション業界のセクハラ問題解決のためには、どのような取り組みを行うべきなのか。業界の働き方を改革し、「構図」そのものを是正していくことが考えられるが、現実問題として、海老澤氏は「まずは啓蒙しかないと思っています」という。
「現在、アパレル企業のトップにいる人たちは、業界全体の業績が上り調子だった華やかな時代を経験している世代というイメージがあります。セクハラの意識に関しては世代ではなく、個々人によるところが大きいとは思いつつも、現在のトップ陣が、真剣に『セクハラ撤廃』に取り組んでいるかと言われると、少し疑問を覚えるところはあります」
海老澤氏は、セクハラに対する認識が低い人には、単純に「セクハラはいけません」と言うだけでは響かないと考えているそうだ。
「『セクハラは会社を潰すことになる』という啓蒙の仕方をしなければ伝わらないのではないかとも思っています。ファッションはイメージが命。特にアパレル不況と言われる昨今では、若い世代が、商品の価格やクオリティ以上に『サスティナビリティ』(環境への配慮がなされ、公平な雇用形態、安全な職場環境によって作られたものか)に目を向けるようにもなっています。そんな中、特に女性向けブランドを持つ企業でセクハラ問題が勃発すると、いくら女性に優しいというイメージを打ち出していても、『実際は女性の人権を蹂躙していた』として、ブランド価値を毀損してしまい、経営にも大打撃を与えることになる。セクハラ行為を行うアパレル企業のトップ陣は、果たしてそこまで考えていたか……もっとライトに『可愛いから誘った』『恋愛感覚だった』くらいの意識なのではないでしょうか」
ストライプ社の展開する「アース ミュージック&エコロジー」は、「あした、なに着て生きていく?」という、女性がファッションを通して自らの生き方を選択することを後押しするキャッチコピーが話題を集めたほか、環境問題に配慮しているというイメージも強く、「ある意味イメージ戦略に成功してきたアパレル企業と言える」と海老澤氏。それをトップ自らがふいにしてしまったのは、懸命に働いている社員やスタッフたちにとってもショックが大きいのではないだろうか。
一方で、海老澤氏いわく「もちろん、『♯MeToo運動』の流れから、女性社員の比率が多いという環境を踏まえ、セクハラやマタニティ・ハラスメントを撲滅し、また仕事と子育てを両立できるような働きやすい職場環境を整える改革を行うアパレル企業も出てきています」とのこと。ストライプ社のセクハラ問題を教訓に、業界内の悪しき慣習が是正されていく流れになることを祈りたい。
(解説 海老澤美幸弁護士/取材・文 サイゾーウーマン編集部)
海老澤美幸(えびさわ・みゆき)
1998年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。同年、自治省(現総務省)に入省。99年、株式会社宝島社に転職し、雑誌「SPRiNG」編集部所属。その後、英・ロンドンでスタイリストアシスタントとしての経験を積み、帰国後、フリーランスのファッションエディターとして活動。12年に一橋大学法科大学院に入学し、17年弁護士登録(第二東京弁護士会)。18年には、ファッション関係者のための法律相談窓口「fashionlaw.tokyo」を開設。現在は三村小松 法律事務所に所属し、ファッションローを中心に扱っている。
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