高橋ユキ【悪女の履歴書】

143カ所切り刻み、両手首切断――“お隣さん”に募ったオンナの恨み【練馬・隣家主婦メッタ切り殺害事件:前編】

2020/03/20 17:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

世間を戦慄させた事件の犯人は女だった――。平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。自己愛、欲望、嫉妬、劣等感――罪に飲み込まれた闇をあぶり出す。

bBearさんによる写真ACからの写真

 昭和51年、1月28日の東京は、空が抜けるように晴れた良い天気だった。都心から少し離れた練馬区東大泉は、いつものようなのどかな雰囲気が広がっていた。主婦・佐藤明子さん(仮名・当時40)は近くの酒屋で朝9時から午後1時までのパートを終え、自転車に乗って、いつものように自宅を目指した。大泉学園駅の近くに建つ木造平屋建て都営住宅の一画。曲がり角を曲がればすぐ家に着く。ところがここは、普段から子どもが飛び出してくることが多いのだ。住民らは自転車でここを通る時、警戒のためにベルを鳴らすのが常だった。ブレザー姿にパンタロンを穿いた明子さんも、いつものように、ほかの住民と同様、最後の曲がり角に差し掛かったところでベルを鳴らした。

「チリンチリン」

 ゆっくりとカーブを曲がり、自転車を止め、家に入る。この音が、惨劇の合図となった。

練馬 隣家主婦メッタ切り殺害事件

 午後1時20分。学校から帰ってきたのは、小学5年生になる明子さんの長女(当時11)。扉を開け、靴を脱ぎ、上がり框(かまち)に片足をかけた時に妙な音を聞いた。


「ピシュッ、ピシュッ」

 続いて、明子さんの声。

「……助けて……」

 足元には、やがて血痕だとわかる、赤い染みがあった。慌てて家を飛び出し、両隣の玄関を叩くが、応答がない。走り出し、その先の十字路でぶつかった近所の青年の手を引っ張り自宅へ戻った。

 玄関から中をのぞいた青年もまた不気味な音を聞いた。


「ピシュッ」

 110番通報によりパトカーが家に来たのは午後1時28分のことだ。部屋に上がった石神井署の捜査員は、その現場の凄惨さをこう述懐する。

「長く警察官をしてますが、あんなヒドいのはあまり見たことがない」

 明子さんは血の海が広がる四畳半と台所の境で、仰向けに倒れていた。体は温かったが、すでに息絶えている。上に伸ばした両手首は切断されていた。右手首は皮一枚でつながっていたものの、左手首は体のそばに落ちていた。血はかもいの上の壁にまで飛び散り、畳を通して床板にも染み通っていた。倒れた襖はズタズタで、窓のアルミサッシにも切り傷がついていた。

 室内に物色の跡は見当たらず、台所から玄関へと血の足跡が続いており、おびただしい量の毛髪が散乱している。明子さんには刺し傷はなく、全て上から切りつけた傷だったが、手首の損傷は激しく、切り口のそばに無数の傷があった。

 合計143カ所もの傷がつけられていた明子さんの死因は、頸動脈切断による出血多量死だった。

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