暮らし
[連載]白央篤司の「食本書評」

『藤井弁当』書評:15年間お弁当を作り続けた人気料理研究家による、「お弁当のワンパターン化」が実用的!

2020/03/14 19:00
白央篤司

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり…… 世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本(食本)を、 フードライター白央篤司が1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

『藤井弁当 お弁当はワンパターンでいい!』 藤井恵 著、学研プラス、1,200円(税別) 2020年2月11日発行 B5判(変型)

 ツレの弁当を作り始めたのは2016年のこと。もともと料理は好きだったし、なにより喜んでくれるのがうれしく、毎朝楽しみつつ作っていた。しかし3カ月ほどで……心折れ。レパートリーを使い果たしてしまい、なんだかすべてがマンネリに思えて、自分が情けなくなってしまったんである。

 いつも同じような弁当しか作れていない。野菜おかずはゴマ和えか、おかか和えの繰り返し。そしてブロッコリーとミニトマトを使い過ぎ……!

 あのときの自分にこの本を贈りたい、そう強く思ったのが『藤井弁当』だ。副題は「お弁当はワンパターンでいい!」

 ああ……なんと頼もしいメッセージだろうか。著者の藤井恵さんはベテランの料理研究家で管理栄養士、料理番組『キユーピー3分クッキング』(日本テレビ)のレギュラー講師としてもおなじみの方。お子さんが2人、お弁当を15年間作られた経験の持ち主である。

 序文で、ストレスなく続けるためには「お弁当作りをパターン化する」ことが大事だと言い切る。そのパターン化は実に明快だ。

1)野菜をゆでる→和えて副菜完成

2)卵焼きを作る

3)肉か魚介で主菜を作る

 この3ステップをすべて「卵焼き器ひとつでやってしまおう」というのが藤井流。

本著の帯

  うーん、慧眼。

 料理に難を感じている人は、「調理道具はなるべく少なくしたい」と願っていることが多い。調理スペースが狭く、物が置けないという声も切実だ。卵焼き器はフライパンより小さく、かさばらない。これひとつで「焼く・ゆでる・炒める・煮る」をやってしまおうという提案は、きっと歓迎されるはず。そう、ワンコンロの人だって多いのだから。ただ深さはないから「揚げものは難しいけれど、揚げ焼きぐらいならできます」と藤井さん。こういう書き方に、私は著者の誠実さを感じる。そして調理器具がひとつなら、後片づけがラクなのは言うまでもなく。

 「弁当はこの構成でいい!」と背中を押してもらえるのは、心理的にずいぶんとありがたいもの。弁当作りを日常としてやっていると、思考停止に陥るときがある。夕食作りも一緒で、どうにも献立が浮かばないときって、あるのだ。車でいえばガス欠のようなもの、面倒くさいとかそういうのじゃなく、あれは一種の機能不全に近い。そんなときに「はい野菜ゆでて、卵焼いて、肉焼いて」と指示してもらえるのは、頭の中の霞が晴れるような気持ちだと思う。

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