「ギャンブル依存症問題を考える会」代表インタビュー

ギャンブル依存症は「普通」すぎて気付かない――見えにくい「犯罪率の高さ」と「嘘まみれ」の実態

2020/02/23 18:00
石徹白未亜(ライター)

カジノを含む統合型リゾート(IR)の設置を受け、厚生労働省はギャンブル依存症の治療を4月から公的医療保険の対象とする方針を示した。これにより、「不妊治療は適応外なのに」「花粉症を保険対象にしろ」など、ネット上は意見が紛糾している。しかし、ギャンブル依存症とはそもそもどんな病気なのだろうか? 公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表で、『祖父・父・夫がギャンブル依存症!三代目ギャン妻の物語』(高文研)の著書があり、自身も同依存症だった田中紀子氏に、「ギャンブル依存」の実態について聞いた。

そもそもどこからが依存症?

――ギャンブルや、お酒などほかの依存対象でもそうですが、そもそもどこからが「依存症」なんでしょうか?

田中紀子氏(以下、田中) 依存はガンみたいに「ガン細胞が発生しました」ではないですからね。きっぱりとしたボーダーラインがあるわけではないんです。本人の中で、なにか行動するときの優先順位のトップにギャンブルが来ているような状況や、家族や友人や同僚といった、周りの人が困っているのだったら、それはもう依存症といえるのではないでしょうか。

――家族だけでなく、友達や同僚に対しても迷惑をかけるのですか?


田中 ギャンブル依存の場合、友達や同僚からお金を借りまくってしまう人もいます。よくあるのは同僚のロッカーからモノを盗んだり。会社の印紙とか切手を盗んだりとか。経費を水増し請求したり。学生だと友達同士でトラブっちゃったりするんですよ。学生ローンなんて、あまり借りられないですから、友人からお金を借りてしまい、返済できないから顔を合わせづらく、大学にも行けなくなってしまう。そして大学も中退せざるを得なくなる。

――大学生がギャンブル依存になるんですか?

田中 大学生には多いですよ。パチンコは18歳からできますよね。競馬は20歳以上であれば大学生からできます。大学側もギャンブル依存のことには無知なため、どこの大学にも「競馬サークル」があったりしますから。大学生もタレントの出てくるCMを見て、気楽な「レジャー」感覚で足を運ぶんです。

――ギャンブル依存症の人は、国内にどのくらいいるのでしょうか。

田中 厚生労働省による2014年の調査では、ギャンブル依存の有病率は成人男性8.8%、成人女性は1.6%という数値が出ています。男性は約9人に1人。なので、依存当事者はまったく普通のサラリーマンですよ。「ギャンブル依存」と聞くと、特にギャンブルに縁のない人ほど、ホームレスのような人を想像しがちですが、そんなことはなく、何の問題もないように見える「普通」の人たちが依存を抱えて生きているんです。


ほかの依存症との違いは「犯罪率」「嘘」

――依存症はギャンブル以外にも、アルコールや薬物などもあります。ギャンブル依存ならではの特徴はなんでしょうか?

田中 もちろん、どの依存も根っこでつながっているところはあります。ただ、他者を巻き込む「被害者ありき」という意味では、ギャンブル依存はピカイチだと思います。

 例えばアルコール依存症の場合は体を壊すので、そこで治療につなげるチャンスがあります。でもギャンブル依存は健康を損なうわけではないので、体はピンピンしている。ギャンブル依存症の人間が行き詰まるのは、体ではなく「お金」です。

――そして消費者金融やカードローンに手を出していくんですね。

田中 そうなると家族に嘘をつき続けないといけないわけです。私もそうでしたが、ギャンブル依存症の夫を持つ妻は、みんな「夫に嘘をつかれたことが一番つらかった」と言いますね。私も、嘘をつく夫が二重人格に見えてしまいました。

 でもその嘘はギャンブル依存症という「病気」が言わせているんだとわかってからは、ちょっと楽になりました。愛とは関係ないんです。妻や子どもを愛しているギャンブラーもいます。結核になったら咳が出るのと一緒で、ギャンブル依存症になったら嘘をつくんです。そこを理解することで、何より当事者の家族の人たちが楽になれると思います。

――ギャンブル依存と嘘って、そんなにワンセットなんですね。

田中 ワンセットですよ! 自身の限界を超えた金を集めるためには、嘘をつくしかないですから。また嘘に加えて、先程お話しましたが、他人のモノを盗んだり、会社のモノを横領したり――となったら、これはもう「犯罪」ですよね。ギャンブル依存は他人に被害を及ぼす犯罪に非常に結びつきやすいです。また、1999年に二人の方が犠牲となった池袋通り魔殺人事件がありましたが、犯人の両親は重度のギャンブル依存で、家庭が崩壊していたとも報じられています。パチンコの駐車場で乳幼児が亡くなる事件も後を絶ちませんが、そうした子どもへの虐待や事件の背景に、ギャンブル依存が関係していることもあります。

三代目ギャン妻の物語