サイゾーウーマンカルチャースポットアルコール依存症の父への殺意と罪悪感 カルチャー イベントレポート 「アルコール依存症の父に早く死んでほしい」地獄を見た家族が抱く、「殺せない」現実と罪悪感 2017/11/26 17:00 スポット 大阪市のイベントスペースLoft PlusOne Westでトークイベント『家の中に酔っ払いがいるって地獄です~アルコール依存症者の家族を持って~』が行われた。漫画家・菊池真理子さんの話題作『酔うと化け物になる父がつらい』(秋田書店)の刊行記念イベントだ。 菊池さんの父は、平日はお酒を飲まず、優しくおとなしい人だったという。しかし、毎週末自宅に麻雀仲間がやって来ると大量飲酒し、月曜日の朝まで化け物になってしまう。昨日までの父はそこにはいない。昨日と今日が連続していない、それが日常だったそうだ。そんな父に、おそらく愛を求めていた母は宗教に傾倒し、勤行に明け暮れる。そうすることで、精神のバランスを保とうとしていたのかもしれないが、母は、菊池さんが中学生の時に自殺してしまう。 同イベントでは、菊池さんが、酒について、アルコール依存について、崩壊していく家庭について語った。 午後7時半から始まった第一部は、作品に沿って菊池さんと担当編集者によるトークが行われた。客席は、女性と男性がちょうど半々。ドリンクのワンオーダーが必要な会場で、アルコールを中心に提供される場なのだが、まん中辺りに座った若い男性以外、誰もアルコールを飲んでいなかったのが印象的だった。 この著書には、あけすけに言えば「悲惨な家庭を覗き見したい」という、興味本位の読者も大勢いるだろうと私は思うのだが、もしかしたらイベントの来場者は、今回のテーマが「他人事ではない」と感じている人なのかもしれない。 ■アルコール依存症の多くは普通の人 最初は、著者と編集者の共通の知人Sさんの事例から、意外と身近にアルコール依存症が広がっている、ということについて話が進んでいく。働かないで連続飲酒、粗暴な行動といったステレオタイプの「アル中」のイメージが強いが、実際はそうでもない。普段は真面目に仕事をしていて、飲み会では少し羽目を外してしまう楽しい人、と周囲には見えている「普通の人」こそがアルコール依存症の多くを占めているのだ。 「このお料理にはお酒がないとダメ、っていう人、いますよね。料理とアルコールのマリアージュが必要だ、っていう。ごく自然に聞く話ですけど、でも反対に『今日はアルコールがないからこの料理はまずい』って、普通の人は言いませんよね」(菊池さん、以下同) 「お酒もあれば良いな」が「お酒がないと無理」になれば、それはもう依存症で、治療の対象になり得る。アルコール依存症の裾野は思いのほか広いのだ。 菊池さんは大人になってから、酒癖のよくない恋人と付き合い、DVを受けた経験を語る。その男性はエリートで話が面白く、普段は尊敬できる人だったが、酔うとたびたび粗暴な面を見せたという。 「殴られてるときは、もちろん痛いし嫌なんだけど、でも後になってそれが薄れてくると『面白い』のフィルターが掛かっちゃうんです。あの人は面白いから、って。普通の人では物足りない、そんな気持ちもありますね。でも、つくづく“面白いだけ”でパートナーを選んじゃいけないな」 菊池さんの父も酔うと奇行が目立ったが、しかし同時にそれは普通の父親にはない行動で、ある意味「武勇伝」として周囲に取られることもあったそうだ。普通の人は、面白くない。菊池さんの潜在的な男性観に、影を落としたかもしれない。また、そう思い込むことで、自身の境遇を肯定しようとしていたのだろうか。 次のページ 家族が嫌な思いをしていたら、治療を 12次のページ Amazon 酔うと化け物になる父がつらい 関連記事 「話が通じない男」はなぜ生まれるのか? 男女の“コミュニケーション不全問題”を紐解く月20日働いて東京の半額程度 華やかさとはほど遠い「地方キャバ嬢」の厳しい生活「なぜ不倫をしないのか?」上野千鶴子が指摘する、“理想の結婚”がはらむ矛盾点「手を握られると安心するの」 ホストにハマるおばあちゃんたちの実態「家族に強いあこがれがあった」植本一子が語る、かなわなかった理想と自分なりの家族像