『女性の死に方』に反映される社会情勢――DVによる死後ミイラ化した女性、家族への「迷惑」を恐れる自死
12月、兵庫医科大学の法医解剖医・西尾元氏が、新刊『女性の死に方』を上梓した。2017年に刊行された前作『死体格差 解剖台の上の「声なき声」より』(共に双葉社)では、法医学の基礎知識や、著者が向き合ってきた遺体にまつわるさまざまなエピソードがまとめられていた。前作では特に、法医学教室に運ばれてくる異状死(死因が明らかでない死)した遺体の7割を占めるという、男性にまつわるエピソードが多く収録されていた。
ところが今作は、同書のタイトル通り、あえて“女性の死”に焦点を当ててまとめられている。妻との口論の末に自殺した夫や、妻に先立たれ、アルコールに依存した結果亡くなった高齢男性など、一部男性の死についても触れているものの、いずれも夫婦の生活から行き着いたひとつ生死の話として、女性に大きく関わっている。
「私は、これまでおよそ3,000体の遺体を解剖してきました。多い時では、日に3~4人の遺体を解剖することもあります。ゆえに、仕事を全うする、つまりその人の死因解明に全力を尽くしてきたため、基本的にはそれぞれのバックボーンについて深く追求するようなことはしないのが信条です。そもそも、多くの場合、『この人は男性だから』『こちらは女性だから』と、遺体を解剖する上で性別は関係ありません。それでもふと、『ああ、女性らしい死に方だな』『この殺し方は女性ならではだろう』『この子の母親はどんな思いだろうか』と、“女性らしさ”を意識する瞬間がある。本書では、そうした私の記憶に残る、女性にまつわる死の物語をまとめました」(西尾教授)
西尾教授のいう“女性らしい死”とは、何か。例えば、同書ではこんなケースが紹介されている。
◎パートナーから受けた暴力が原因で亡くなり、ミイラ化した女性
◎親族の家に身を寄せていながら、孤立して亡くなった高齢女性
◎日本では未認可のダイエット薬を個人で輸入し、痩せすぎて亡くなった女性
◎美容整形を受けた翌日にエコノミークラス症候群となり、突然死した女性
◎甲状腺の病気や乳がんなど、女性特有の病気で亡くなった女性
これらはいずれも男性ではほとんど起こり得ないと感じる「死に方」だと西尾氏は言う。