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[連載]白央篤司の「食本書評」
『まいにち湯豆腐』書評:「ラクを優先派」から「探求心強め」まで幅広いタイプを満足させるバリエーション
2020/02/06 12:00
帯にある「10分でおいしい」、近年の人気ワードだ。「調理時間はなるべく少なく」のニーズは高まるばかり。「料理はラクを優先派」を意識しているのが、レシピの表記からも感じられる。
「絹ごし豆腐(4つにちぎる)」
「木綿豆腐(半分~4等分に切る)」
「牛ロース薄切り肉(半分に切る)」
ざっくりとした指示が、「厳密にやらなくていいよ~」と言われてるようで、読んでいて肩に力が入らない。ただ、ラク追求ばかりではない。料理をしっかり学びたいなら、44ページから3ページにかけて解説される「3つのかけ算で味をつくる!」はかなりの役立ち情報になる。
「味の基本」を担当するもの、「コク・旨み」を出すもの、そして仕上げに「香り・辛味・酸味」で料理にアクセントやキレを加えるものを詳述。この構成をざっくりでも知っておくと、料理する上で「このプロセスは何をやっているのか」が理解しやすくて、便利ですよ。
小田さんの本は、レシピがただ詰まっているだけでなく、「なぜこれをするのか」という理由が添えられることも多い。そこがうれしい。豆腐といえば「下ごしらえとして水切りが常識」という人は多いだろうが、「そのままだし汁や煮汁に入れてもいい」と小田さんはまず書く。けれども「市販の豆腐パックの中の水は、凝固剤が溶け出しているので、できれば軽く水気を切っておくと味のなじみがよくなる」と述べる。理由が書かれると「やろうかな」という気になれるというか。「できれば」という言葉がそえられているのもポイントだ。面倒と思ってしまうときに、この一言があるとないとでは随分違う。気持ちがラクになる。
さて、本書内の料理で特に私が気に入った2品をご紹介したい。