『とろみのレシピ』書評:短所もわかる、魅惑のとろみ料理を紹介! まずはお手軽な“銀あん”うどんから
時短、カンタン、ヘルシー、がっつり…… 世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本(食本)を、 フードライター白央篤司が1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!
『からだが温まる とろみのレシピ』
吉澤まゆ著/池田書店、1200円(税別)2019年10月25日発行
「おお、そうきたか……!」
書店でこの本を見つけて、唸った。「とろみ」を切り口にするなんて……いいなあ、読みたくなる。レシピや食に関する本は毎月多数出版されているけれど、人気の切り口はやっぱり似てしまうもの。出版不況で冒険もしにくい時代だし。そこに、「とろみ」とは。思わず手に取った。
とろみのある料理って、見るからにぬくもりを想起させる。寒い時期は特にいい、芯から温めてくれそうで。実際筆者で管理栄養士の吉澤まゆさんも、とろみ料理の長所として第1に「からだが温まる」を挙げていた。とろみをつけることで「料理が冷めにくく、温かい状態でおなかに入るから」と。本書内で比較実験もされているが、片栗粉でとろみをつけたお湯と、普通のお湯を30分放置した場合、とろみのあるほうが10度以上も高い温度をキープしていた。
また、とろみをつけることで食感もよくなると筆者は言う。たしかにぱさつきがちな鶏むね肉や、ホクホク感の強いカボチャや里芋ってあんかけ料理と相性がいい。小さい子やご高齢の方にも、とろりとした料理は食べやすくて人気があることを思い出す。
他にもボリューム感が出ること、タレをしっかりまとうので野菜や脂の少ない魚介類でも満足感がアップすることなどが、とろみ料理の長所として挙げられている。だが「食材によく絡む分、汁を多くいただくことに」なるので、「味つけによっては塩分を多くとりがちに」なるというリスク面も冒頭で語られる。なので、うま味をきかせて塩分を抑えようという提言も。マイナス面も併記されていると本への信頼度ってアップするよね。
本書内ではとろみを利用したおかずや汁もの、ディップやドレッシングなど66のレシピが紹介されている。とりわけ「これ覚えておくと便利なんだよなー」と私が思うのは「銀あん」だ。だしを醤油などで味つけして、とろみをつけるもの。吉澤さんのは醤油と塩のみでシンプルに味つけ。加熱した野菜や魚介、厚揚げなんかにかけると、もうそれだけで一品になる。
銀あんをうどんにかけて、あんかけうどんにするとね……うまいんだ。単なるかけうどんが、とろみを帯びると不思議にごちそう感が増す。冷凍うどんを使えばかなり手軽に一食ができあがる(最近の冷凍うどんの完成度は相当なものですよ、レンチンでOK)。つゆがしっかり1本1本にからみつくので、薄味でも満足度は高い。ちなみに本書内では溶き卵入りのバージョンが紹介されている。
とろみというと片栗粉でつけるものと思いがちだが、吉澤さんは長芋やオクラといったネバネバ食材を用いる方法や、もちや豆類を煮ることでとろみを出す方法、あるいは「豆乳×レモン」なんてユニークな手法でのとろみのつけ方もレシピと共に紹介されている。発見する楽しみにも満ちた一冊だ。
白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。