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ドラマレビュー

『スカーレット』がほかの朝ドラと一線を画すワケ――父・常治と娘・喜美子の関係性の妙

2019/12/28 19:10
佐野華英

 ところで「朝ドラあるある」の一つとして、「太陽と月のキャラクター配置」というのがある。ヒロインを「太陽」に喩えるなら、映し鏡として相対する「月」にあたる人物が登場する。たいがい「月」は「太陽」の親友、ライバル、同性の家族のいずれかで、ときに見守り、ときにツッコミ役にまわり、ときにヒロインの発奮材料となる。また「月」は、ヒロインにとっての「もしかしたらこっちだったかもしれない」姿を体現する存在とも言え、つまりヒロインの物語の陰に隠れた裏面史でもあるのだ。

 『ちゅらさん』(2001年)ならえりぃ(国仲涼子)に対しての真理亜(菅野美穂)、『ちりとてちん』(07年)なら喜代美(貫地谷しほり)に対しての清海(佐藤めぐみ)だ。『カーネーション』(11年)では糸子(尾野真千子)と奈津(栗山千明)が、『あさが来た』(15年)ではあさ(波瑠)とはつ(宮崎あおい)がその関係性と言える。

 では『スカーレット』で、「太陽(喜美子)」に対しての「月」は誰か。ヒロインを見守り、ツッコみ、発奮剤になり、裏面史でもある……これ、常治ではないか? ヒロインの「月」が父親。これは、それだけ父娘の関係が密であるということだろうし、ほかの朝ドラとは違うこのドラマの重要なポイントとも言える。

 「太陽と月」の構図を考えたとき、喜美子に不器用な愛情を注ぎながらも、いつも娘の前に立ちはだかり、めんどくさい存在である常治の「勝手」が、実は事を動かしていることに気づかされる。

 常治が勝手に“拾ってきた”草間宗一郎(佐藤隆太)は、喜美子の最初の「師」となる。「大阪行きたない」と泣く喜美子への「夕焼け見てこい」という禅問答のような言いつけは、喜美子に「緋色の原風景」とお守りとなる焼き物の欠片をもたらした。常治の独断で決めてきた働き口、大阪の荒木荘では、2人目の師匠・大久保のぶ子(三林京子)や、その後の人生で重要なメンターとなる庵堂ちや子(水野美紀)と出会う。さらに、常治の都合で喜美子を信楽に呼び戻したことで、絵付けの仕事とその師匠・深野心仙に出会わせ、やがてのちの夫となる十代田八郎(松下洸平)、そして陶芸の道に引き合わせる。

 娘を手の内に留めようとする常治の思いとは裏腹に、無自覚のまま喜美子を外の世界に羽ばたかせるきっかけを与えるのが、なんとも皮肉であり、このドラマの面白さだ。「金なし・学なし・教養なし」の常治の不器用な親心が、結果として喜美子に「技術」や「学」や「教養」を授ける、「知らぬ間のギフト」に涙を禁じ得ない。亡くなった常治の戒名は「常光良道信士」。欠けたり満ちたりしながら常に喜美子を月の「光」で照らし「良い道」に導いていたのは、まぎれもなく常治だった。

 喜美子にとって大好きなお父ちゃんであり、同時に枷でもあった常治が逝った。増築費用の月賦と、めんどくさい重石と、大きなギフトを残して逝った。これからがまさに喜美子の人生の第2章というわけだ。あれだけ「腹の足し」になるものしか信じなかった常治が、家族から贈られた絵皿を前に今際の際、「(ものづくりとは)心を伝えるいうことやな」と発した。その言葉を抱いて、喜美子はこの後、どんな陶芸家になっていくのか。月を失い、これから彼女は自力で「赤い太陽のように」光らなければならない。年明けから始まる新たな物語を見守りたい。

佐野華英(さの・かえ)
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。エンタメ全般。『ぼくらが愛した「カーネーション」』(高文研)、『連続テレビ小説読本』(洋泉社)など、朝ドラ関連の本も多く手がける。

最終更新:2019/12/28 19:10
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