ドラマレビュー

『スカーレット』がほかの朝ドラと一線を画すワケ――父・常治と娘・喜美子の関係性の妙

2019/12/28 19:10
佐野華英

――現在放送中のNHK朝ドラ『スカーレット』。視聴者の間で好評を博す本作について、『ぼくらが愛した「カーネーション」』(高文研)、『連続テレビ小説読本』(洋泉社)などの編著者である佐野華英氏は、「ほかの朝ドラと一線を画す」と述べる。今回、その真意をつづってもらった。

『スカーレット』(NHK)公式サイトより

 

喜美子の父・常治、死す――二分した視聴者の反応

 滋賀県・信楽の地で女性陶芸家の草分け的存在となる川原喜美子(戸田恵梨香)の人生を描いた連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)が好評だ。「ものづくり」というテーマを追求した丁寧な作劇で、ドラマ好きから厚い支持を受けている。毎話わずか15分のなかに息を呑むような心情描写と人間の「生」がみっしりと詰まっていて、泣かせにきたと思えば、不意に笑える台詞でサッとかわすユーモアに、思わずクスリとさせられる。説明台詞やあざとい扇情を極力排除し、見る者にいろいろと想像させてくれるという豊かな行間を置く“大人の演出”も見事だ。

 そんな本作品もいよいよ折り返し地点に達し、年内最後の週「愛いっぱいの器」(12月23〜28日放送)では、喜美子の父・常治(北村一輝)が不治の病で他界する。SNSでは多くのファンが常治の死を悲しむ一方、「死んで今までの蛮行がチャラになると思ったら大間違い」といった厳しい意見も見受けられた。つまりこの常治は、実に視聴者の反応を二分するキャラクターだった。

 亭主関白の頑固親父で飲んだくれ。山っ気が強いのに商才がなく、いつまでたっても金が身につかない。頭に血が上れば怒鳴る、手が出る、ちゃぶ台をひっくり返す。おまけに娘たちの進路を独断で決めてしまう。「ふわごこち」重視の傾向をたどる近年の朝ドラとは一線を画し、「The 昭和の親父」を豪速球でぶち込んできたな、といった印象だ(とは言っても、向田邦子やジェームス三木が描いたハードコアな「昭和の頑固親父」に比べれば、まだまだソフトな方なのだが……)。それだけに「家族への愛情は揺るがない、愛すべき不器用親父」と見るか、「娘を抑圧し束縛する狭量親父」と見るか、常治という人物をどの視点から眺めるかで、その反応は両極に分かれたのではないだろうか。


 『スカーレット』の登場人物は、とにかく造形がリアルで、脚本家の水橋文美江氏と、制作統括の内田ゆきプロデューサーはこの部分に相当力を入れたと思われる。そのリアルさは、人物が抱え持つ「欠け」の部分もあるがままに存在させているからこそ、生まれるものだろう。登場人物が、実際にその世界のなかで「生きている」と感じさせるゆえんもここにある。焼き物の凹凸や色合いが光の当て方によってさまざまな表情を見せるように、背中合わせで併存しながら反転を繰り返す人間の「美点」と「欠点」。どこをどちらととらえるかは見る側が決めることで、作り手側が見方を誘導したりしない。バッシングも覚悟のうえだろう。「精魂込めて作りました。感じるままに、自由に受け取ってもらえたら」という制作陣の矜持と視聴者への敬意が感じられる。まさしく常治というキャラクターは、そういった本作品の「真面目な作劇」の産物であり、視聴者の反応が両極化したのも自然な成り行きと言えるだろう。

連続テレビ小説 スカーレット Part1