【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

職人技光る“皇室愛用ブランド”が廃業――「デパート」「通販」の台頭で消えゆく伝統【日本のアウト皇室史】

2019/12/28 21:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)
Photo by vr4msbfr from Flickr

 皇室が特別な存在であることを日本中が改めて再認識する機会となった、平成から令和への改元。「皇族はスーパースター」と語る歴史エッセイストの堀江宏樹さんに、歴史に眠る破天荒な天皇家のエピソードを教えてもらいます!

雅子さまが着用した“ローブデコルテ”、女性皇族のファッション事情

――前回、「御用達品」の制度についてお話をうかがいましたが、今日は女性皇族のご用達ブランドについて詳しく教えてください。

堀江宏樹(以下、堀江) この秋は、新帝陛下の即位にともなう儀式がたくさんあり、皇族の方々のさまざまな姿を目にする機会が多かったと思います。

 特に、雅子さまを始めとする、女性皇族のお姿は華やかでしたね。平安時代以来の歴史を持つ、正式名は「五衣唐衣裳(いつつぎぬからぎぬも)」、一般的には「十二単」と呼ばれる有職装束。それから洋装の中で最高の格式を誇る「ローブデコルテ」などのドレスは、みなさんの目を引いたことでしょう。

――雅子さまが着用なさった「ローブデコルテ」は、人気があったようです。そもそも「“ローブデコルテ”って何?」ということで、ネットでも検索順位が一気にはね上がったとか。


堀江 「ローブデコルテ」とは、襟元を大きく開けて、首筋から肩あたりまでを見せるデザインのドレスです。その歴史は長く、シンプルにまとめると、第二次世界大戦後以降の欧米の社交界で最高の格式を持つ礼装として着用された、ドレス。デザインは、いわゆる「十二単」のように「こういう形でなくてはならない!」という縛りは厳密にはなく、雅子さまのローブデコルテは襟が大きく波打ち、フリルみたいになっていますね。このデザインには、襟まわりの過度な露出を控えるという目的があるのだと思いますよ。ただし、女性皇族方のローブデコルテの色は白か淡い単色に限定されており、これは男性皇族が、ホワイトタイ(いわゆる燕尾服)で正装なさる時の、白いタイの色に合わせるためといわれます。

――男性の正装を意識して、コーディネートされているのですね。皇室ゆかりの京都府・上賀茂神社での結婚式では、これまた皇室ゆかりのローブデコルテを着用できるプランが非常に人気になっているそう。前回から皇室御用達ブランドについてお話をうかがっていますが、やっぱり影響力があるんですね。

堀江 あと女性皇族のファッションで、毎回注目を集めるモノといえば、独特なお帽子でしょうか。トランプ大統領が来日された時も、みなさまいろいろな帽子をかぶっておられました。ああいう帽子は、ドレスに合わせて、専門の高等技術を持つ帽子職人がいるお店に別にオーダーするんですよ。

 今は廃刊になっている「angle」(主婦と生活社)というタウン情報誌の1980年(昭和55年)10月号に、女性皇族御用達の帽子店として、千代田区・麹町の「ベル・モード」が挙げられています。31年(昭和6年)から皇室との御縁が始まり、現在でも(少なくとも)紀子さまの帽子は「ベル・モード」が作っているそうです。

 昭和天皇の皇后である香淳皇后は、当時の店主・筒井光康さんがテレビ出演すると、ちゃんと見てくれて「筒井、今朝テレビに出ていましたね」と一言くださる、「お優しい方」だったそうです。生まれながらに人の上に立つような方でしたから、この方に尽くしたい! という職人魂を掻き立てるのがお上手だったようで……。


 ちなみに男性皇族の場合は「金洋服店」のように、定番的存在がある一方、女性皇族の衣服やドレスについて明確な御用達はないようですね。当然ですが、好みは人それぞれですし、時代によっても変わるからでしょう。

愛と欲望の世界史