万引き犯に「おれと結婚してくれないか」と口説かれ……Gメンが呆れた「生活保護老人」の顛末
この日の現場は、関東郊外にある公営ギャンブル施設に隣接する食品スーパーL。夕方のピークを迎えて、メインの出入口を見渡せるパン売場に佇んで、入店者のチェックをしていると、居合わせた男性客から突然に声をかけられました。
「ねえ、お姉さん。どのあんぱんが、一番うまいと思う?」
反射的に顔を見上げれば、70代前半と思しき見知らぬ男性が、人懐こい顔で私の顔を見ながらニヤニヤしています。大きめの顔についた小さな目と、数本の歯しか残っていない幅広い口が印象的な笑顔は、アンパンマンに出てくるカバオくんを彷彿させ、どこか憎めない感じがしました。
「いつもこれを買うけど、口に合うかしら」
「へえ……。小さいのが、たくさん入っているなあ。ねえ、一緒に食べない? 今日はボートで勝ったから、ごちそうするよ」
「あらー、ありがたいわね。でも、時間ないから遠慮しとくわ」
酒とするめいかが混じったような臭い呼気を吸わないように顔を背けて誘いを断ると、その場で地団駄を踏んでみせたカバオくんが、少し大きめの声で悔しそうに言いました。
「なんだよ。今日は、大勝ちして金あるから、遠慮しないでいいのに……」
まるで旧知の知り合いのように話しかけてくるので、微笑みながら軽くいなして立ち位置を変えると、あんぱんをカゴに入れたカバオくんは、続けて草大福を手に取って売場を離れていきます。草大福を握った手をカゴの中に入れたまま歩き始めたので、それが気になって後を追えば、まもなくしてズボンのポケットに隠してしまいました。先ほど、お金があると自慢していたのは、周囲を油断させるためのことだったのでしょうか。カバオくんは、草大福をポケットに隠したまま、素知らぬ顔でカゴにある商品の支払を済ませ、購入した商品を袋に詰めると出口に向かって歩いていきます。
(お饅頭ひとつだけだし、面倒くさそうな人だから、見送ってしまおうか……)
そんな気持ちで行動を見守れば、カバオくんは出入口脇に設置された生花売場の前で立ち止まり、一対分の生花を手にして店の外に出て行ってしまいました。