グルタチオン配合の「白玉点滴」「美白サプリ」はニセ医学? 医師に聞く「証拠はほぼない」恐るべき実態
近頃、美白効果が得られるとされる成分「グルタチオン」配合のサプリメントや点滴が、美容意識の高い女性の間でブームになっているのをご存じだろうか。人気有名人がオススメしていることもあってか、経口用サプリ「リプライセル リポソーム GSH グルタチオン」が飛ぶように売れ、また美容クリニックではグルタチオン配合の「白玉点滴」が人気を博しているという。ネット上には、実際に「肌が白くなった」「シミ対策に最適」といった声が飛び交っているが、一方で、その効果や安全性に疑問を抱く人も少なくない様子。そこで今回、『「ニセ医学」に騙されないために』(内外出版社)の著者であり、世にはびこる「医学のデマ情報」に鋭い目を向けている内科医・名取宏氏に取材を行い、グルタチオンの効果や安全性について、話をお聞きした。
1万円もザラの「白玉点滴」――グルタチオン1アンプルは数十円!?
――まず、グルタチオンとはどのようなものでしょうか。
名取宏氏(以下、名取) グルタチオンは「グルタミン酸」「システイン」「グリシン」という3つのアミノ酸によって形成される低分子量のペプチドです。体内にも存在し、抗酸化作用を有するものなので、“理論上”、体に良い可能性は十分あると言えるでしょう。
また、グルタチオンは、そもそも美容目的で用いられるものではなく、「日本薬局方」(医薬品の規格基準書)に収載されている公的な医薬品で、薬物中毒、慢性肝疾患における肝機能の改善、急性湿疹などに効能または効果があるとされています。
――薬物中毒に慢性肝疾患……「美白」とはまったく異なる病気に用いられる医薬品なのですね。
名取 ただグルタチオンは、一言で言うと「昔の薬」で、現在ではあまり使われない医薬品と言えます。慢性肝疾患は私の専門分野ですが、グルタチオンを実地臨床で使ったことはありませんし、使っているほかの肝臓内科医も知りませんね。また、肝疾患以外のほかの疾患にも、ほとんど使われていないのではないかと思います。グルタチオンの添付文書に掲載されている文献の多くが、和文の、しかも1970年前後のきわめて古いもので、現在の基準ではとうてい保険適用されるレベルの医薬品ではありません。EBM(エビデンスに基づいた医療)という考え方が浸透するずっと以前に保険適用されてしまった医薬品と言えるでしょう。
――「昔の薬」が、いま美容界でブームになっているのも、なかなか不思議な話ですね。グルタチオン配合の「白玉点滴」のように、自費診療のクリニックが、公的な医薬品を保険適用外使用するというのは、珍しくないのでしょうか。
名取 そうですね。国内で承認された医薬品は、薬局を通して容易にかつ安価で購入することができるのですが、それを「こうした効果・効能もありますよ」というふうに付加価値をつけて宣伝し、高額な自費診療で提供することは珍しくないでしょう。注射用グルタチオンも、薬価は実は1アンプル数十円程度なのですが、美容クリニックの「白玉点滴」は、何アンプル使用しているか不明ではあるものの、1万円以上することもザラだと言います。
また、がんに効果があるとされる「高濃度ビタミンC点滴療法」も同様です。ビタミンCのアンプル自体は医薬品で安く手に入るのですが、それを自費診療として高い値段をつけて提供している。「高濃度ビタミンC点滴療法」自体、あまり根拠のないものなんですけどね。