『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』著者・巣内尚子さんインタビュー(前編)

『奴隷労働』著者・巣内尚子氏に聞く、ベトナム技能実習生の現実(前編)――奴隷生む闇の“産業”

2019/10/31 15:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

労働者と雇用者の間に、必ず仲介組織が入る

――詳しくは本書に書かれていますが、外国人技能実習生の問題は、日本だけの問題ではないということですね。

巣内 はい。日本の受け入れ企業における労働問題が指摘されてきたのですが、実際には送り出し国の問題も複雑に絡み合っています。

 技能実習制度では大半の企業が、「団体監理型」という仕組みで技能実習生を受け入れています。ベトナム側では技能実習の希望者が送り出し機関を利用し、日本の受け入れ企業は、監理団体という仲介組織を必ず利用することになっています。つまり直接雇用ではなく、労働者と雇用者の間に必ず仲介組織が入るのです。その際、技能実習生は送り出し機関に手数料を支払い、受け入れ企業は監理団体に監理費や紹介料などを支払います。

 私の聞き取りの対象となったベトナム人技能実習生59人(2005〜17年に来日)の渡航前費用は平均約94万4300円です。渡航前費用のために、ほとんどが借金をしており、借金の平均は約76万8300円でした。技能実習生は、この借金を日本で働いて得た収入から返します。ですが、技能実習生の賃金は各地の最低賃金水準に張り付いていると指摘されることもあるほど、高くはありませんから、借金返済には1~2年かかることもあります。これだけの借金を背負って行う行為を「移住労働」と言っていいのか、あるいは「債務労働」「人身取引」と言うべきなのか、丁寧に議論する必要があると思います。

――実習生の借金先は、どういったところですか?


巣内 聞き取りで興味深いと思ったのは、銀行からお金を借りた人が多かったことです。これはベトナム政府が政策的に移住労働の希望者を対象に、渡航前費用支払いのための融資をしていることが背景にあると考えられます。技能実習生の多くは農村出身者ですから、家族が土地使用権を担保に銀行から融資を受け、渡航前費用を支払うわけです。そして、技能実習生は来日後の給与から、この借金を返済するという流れなのです。この流れをみると、技能実習制度と、ベトナム政府の政策とが、結果的に借金漬けの労働者を生み出しているといえると思います。

 また日本側を見ていくと、受け入れ企業側も技能実習生を採用するため、さまざまな費用を支払っていることが見えてきます。受け入れ企業は監理団体に毎月監理費を支払っているうえ、中には紹介料を支払うケースもあります。紹介料は技能実習生1人当たり30万~50万円になるケースもあると聞きます。

 さらに技能実習生は在留資格上、最初の1年目が「1号」、2〜3年目が「2号」、4〜5年目が「3号」というのですが、1号から2号に移行するとき、2号から3号に移行するときに、それぞれ試験を受けることが求められます。この試験の受験料の中には割高なものがあり、受け入れ企業にとって負担になっているケースもあります。技能実習生は30万人を超えており、みな試験を受けるわけですから、受験料の総額は相当な金額になるのではないでしょうか。

 つまり今、ベトナムと日本の間で、技能実習生や留学生の送り出し/受け入れ事業においてさまざまな利害関係者が存在し、一つの産業が構築され、この産業がベトナム―日本間の人の移動を促進し、あるいは行き先・就労先を条件づけているのです。これを移民研究では、“移住産業”といいます。

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