インタビュー

なぜ人身事故をスマホで撮影するのか? 精神科医が、JR新宿駅「異例の放送」の背景を語る

2019/10/11 16:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

SNSが掻き立てる「羨望」という怒り

「人身事故をスマホで撮影する人が増えているのは、裏を返せば、それだけ、怒りや欲求不満を溜め込む人が増えているということではないでしょうか。その背景にも、やはり先ほど指摘した社会情勢が関係しているように思います。現代は、昭和の時代と違って、雇用が不安定で、会社勤めをしていてもなかなか給料が増えない状況にあり、経済面で不満を抱いている人が多い。また一部の大金持ちとそうではない人たちの格差が拡大していると言われ、しかも昨今はSNSで、誰もが富裕層の生活を見ることができます。そのため、余計に羨望(他人の幸福が我慢できない怒り)が掻き立てられ、結果的に『他人の不幸は蜜の味』という人が非常に増えたのではないでしょうか」

 この「他人の不幸は蜜の味」という心理は、二つの形で表れやすい。「一つは、羨望の対象である恵まれた境遇の政治家や芸能人、有名スポーツ選手などが失墜した際に、拍手喝さいしてボコボコに叩くこと。そしてもう一つが、今回のように、自分より不幸な人を撮影して、人の目に触れるネット上にアップすること」だという。

「『ほかの人もやっているから、自分もやっていいんだ』という集団心理で、罪悪感を払しょくしながら、人身事故の現場を撮影している面もあると思います。また、そうした行為を『止める人がいない』というのも、非常に問題。見て見ぬ振りをする人=『傍観者』が増えれば増えるほど、行為はエスカレートします。傍観者は、制止すると、自分が攻撃されるかもしれないという恐怖ゆえに、見て見ぬ振りをするわけです。傍観者が増えているのは、物事を正義感や倫理観ではなく、『自分が損をしないように』と損得で考える傾向が強くなっているからでしょう」

他人の意見を聞かない人 / KADOKAWA /  片田珠美 / 出版社 KADOKAWA   ジャンル  新書   著者  片田珠美