芸能
『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』おしゃれメシに変わる公的施設の懐かしい味「社長と竜造 葛西臨海公園物語」

2019/07/23 12:34
石徹白未亜

 今回の葛西臨海公園以外にも、公的な機関にゼットンのような民間資本が入る流れは進んでいくのだろう。レストラン運営に慣れた会社が入ることで、フルーツが乗ったインスタ映えするパンケーキや、ケチャップでなくグレイビーソースのかかったハンバーグなど、今どきで、味もいいメニューが、価格設定も絶妙に計算された上で展開されるのだと思う。

 しかし私は、大型病院や市役所や学校など「公」の要素が強い施設の、そっけないメシが結構好きだ。

 小学生の頃、市民プールにいった後、併設の小さな喫茶コーナーで月見うどん(200円)を食べるのが楽しみだった。よそったあと卵を落とすので全然卵が煮えていない、あの月見うどんを思うと、夏場はかき氷が出ていたとか、金髪の男の子が描かれた日世のアイスコーンの箱が店の端に積まれていたとか、塩素のにおいや屋内プールの生暖かい空気の感じや更衣室にあった赤いすのこなど、次々と記憶がよみがえっていく。今も市役所や病院などに行く用事があると、あのうまくもないが安くて懐かしい、そっけない“公メシ”を郷愁に誘われ食べてしまう。

 しかし、それらは絶滅危惧種だ。ゼットンのような民間資本が入ることで「うまくもないが安くて懐かしい」公メシは、うまいが安くはなく、でも「最新の流行とニーズをくんだおしゃれメシ」へとアップデートされていくのだ。

 私にとって「公メシ」は過去へつながる扉だ。家で食べた母の料理も懐かしいのだが、外食の懐かしさはまた特有で独特だ。変化が目まぐるしいこの時代、食事環境もアップデートの連続で育つ今の子どもは、数十年後に思い出し、グッと来たり、ほっとするような「懐かしい外食」があるのだろうかと思う。大きなお世話だが少し気になった。

 次回の『ザ・ノンフィクション』もテーマは飲食運営の『天国のあなたへ… ~「ラーメンの鬼」の背中を追って~』。ラーメンシェフと呼ばれた石塚和生、58歳。国外出店など一時期は多店舗運営をしていたが、不運な事故も重なり経営者から職人へと戻る。師匠から託されたレシピで再起を図るが、果たしてラーメンは完成するのか?

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂

最終更新:2019/07/23 12:34
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