日本の避妊は「途上国」以下――ガーナ人女性が激怒した現実【早乙女智子×福田和子対談】
――福田さんは「#なんでないの」プロジェクトの代表として、日本の性事情を世界に向けて発信されていますが、海外と比較してどのような印象を受けますか?
福田 以前、セクシュアルヘルス(性の健康)やジェンダーの平等に関する国際会議で登壇する機会があったので、性教育がない、避妊具も少ない、中絶も手術で行われるという日本の現状を話したら、「残念な国なんだね……」みたいに静まり返っちゃったんです。そして、中絶手術の費用が10万~20万円っていうと、みんなキレていました。私の話を聞いたガーナ人の女性は日本の現状に衝撃を受けたらしくて、「なんで怒らないの!?」ってすごく怒っていて、ネパールの看護師さんには、「私が日本へ行って、産婦人科医に避妊具の種類を教えようか?」とも言われたんですよ。どこの国も同じようなリアクションで、日本の避妊事情の遅れを肌で感じました。
――発展途上国といわれる国の方が、日本より避妊事情が充実しているんですね。
早乙女 私たちが途上国だと思っている国は先進国から援助を受けているので、経済格差や文化的差異はあっても、避妊のベースは先進国と一緒なんですよ。ちなみに、ジェンダーギャップ指数で日本は110位(149カ国中)。この領域で日本は先進国ではなく、完全に途上国です。女性の性に関する問題は、「途上国として」というスタンスで考えないといけないと思います。
福田 国際会議で避妊の問題が語られるとき、話題になるのは、ヘルスケアセンターが少ないことや、物流の問題で避妊具のストックが不足していることなど、必要な女性にうまくデリバリーできていない現状なんですよね。そもそも、日本のように「認可されない」という議題がないんです。参加した際、誰にもわかってもらえず、ただ驚愕されるだけという苦しみを味わって、すごく絶望しましたね。
避妊は自立した女性の証し
――日本では女性主体の避妊に対して、スティグマが強いようですが、海外ではどんな雰囲気なのでしょうか?
早乙女 「大人はセックスするものでしょう?」という感覚なので、普通に受け入れられています。
福田 逆に、女性が何かしらの“バースコントロール”を考えていないと、自立した女性として見てもらえないですね。私がスウェーデンでピルをもらいに行った時、医師の対応が「自分や相手のことをきちんと考えているってことだから、すごくいいことだよ」と褒めてくれたんです。そして、「どれにする?」と多くの避妊法を説明してくれて、「自分のライフプランや相手との関係性を考えて選んでね」とポジティブな姿勢で向き合ってくれます。なので、自分自身が受け入れられている気持ちになりますし、すごく良いことをしているんだと思えました。
早乙女 日本は相談窓口に、もれなくスティグマが置いてありますね。高校生カップルが学校の性教育でピルを知って病院にもらいに行ったら、「高校生には出さない」と言われたという事例が去年もありました。海外はユースクリニックもあるから、学生でも、親からも学校からもフリーで、プライバシーを守られながら相談ができるのに。
福田 ピルでもアフターピルでも、親の署名が必要とか、高校生お断りと書いてある病院が、日本にはありますよね。正しい性教育が必要なのはもちろんですが、せっかく知った知識を活用できない方が、知らずに対策できないより残酷。性教育の先のアクセスも守られないといけないなと思います。
早乙女智子(さおとめ・ともこ)
日本産科婦人科学会専門医。日本性科学会認定セックスセラピスト。1986年筑波大学医学専門学群卒業。2015年京都大学大学院医学研究科単位取得退学。2019年京都大学博士(人間健康科学)取得。世界性の健康学会(WAS)学術委員、厚生労働省社会保障審議会人口部会委員。1997年に経口避妊薬の認可に向けて結成した一般社団法人性と健康を考える女性専門家の会代表理事。ジョイセフ理事。現在は、倖生会身原病院産婦人科常勤医および公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター研究員。著書『避妊』(主婦の友社)、監訳『ピル博士のピルブック』(メディカルトリビューン)他。
福田和子(ふくだ・かずこ)
#なんでないのプロジェクト代表、世界性の健康学会(WAS)Youth Initiative Committee委員、I LADY.ACTIVIST、性の健康医学財団機関誌『性の健康』編集委員、国際基督教大学
大学入学後、日本の性産業の歴史を学ぶ。その中で、どのような法的枠組みであれば特に女性の健康、権利がどのような状況にあっても守られるのかということに関心を持ち、学びの軸を公共政策に転換。その後、スウェーデンに1年間留学。そこでの日々から日本では職業等にかかわらず、誰もがセクシャルヘルスを守れない環境にいることに気付く。「私たちにも、選択肢とか情報とか、あって当然じゃない?」 との思いから、17年5月、『#なんでないのプロジェクト』をスタート。