歌舞伎町の人魚伝説事件――ホストのラストイベントから、消えた「女」と「1000万円」
ホストにハマりすぎている女たち――通称“ホス狂い”。「ホストに多額のカネを貢ぐ女」というイメージだけが横行する中、外の世界からはわからない彼女たちの悲喜劇がある。「ホストにハマらなかったら、今頃家が建っていた」という、新宿・歌舞伎町では名の知れたアラサー元風俗嬢ライター・せりなが、ホス狂いの姿を活写する。
歌舞伎町で日夜ホストに執心していると、急に知人が音信不通・行方不明になる、ということがままにある。
突然、非通知で「○○を知らないか」などと、不穏さしかない電話がかかってきたことも何度かあった。そういうときは迷わず「知らない」と答えるようにしている。だいたい、金か、異性か――あるいは、その両方か、だ。首を突っ込んでもなにひとつ、いいことがない。くわばらくわばら。
一方で、歌舞伎町を10年ほどフラフラしていて、ある気づきを得た。それは、一時は「消えた」人々も、だいたい、1~2年もすればまた歌舞伎町で見かけるようになる、ということだ。そして、過去の蒸発について、歌舞伎町の住人たちも、たいして詮索しない。なんとなく、許して、受け入れる(私含め、多くの人は自分のことで精一杯で、もしかしたら他人の事情なんて酒のアテほどしか興味がないのかもしれない)。
キビシイ掟があるかと思えば、同時に寛容さも持ち合わせている。不思議なものである。あるいは、それもまた、歌舞伎町の底なしの魅力の一つなのかもしれない。
さて、今日はそんな「消えた」友人・ミク(仮名)の話をしてみたい。
ミクは私より4つか5つ年上で、当時の職場であるSMクラブの先輩だった。そして、ホスト遊びの先輩でもあった。私がどっぷりホストにハマっていたときのこと。ミクはSMクラブとソープを掛け持ちして、7年間ずっと同じ担当にお金を使い続けていると話していた。
7年である。小学校に入学した子が、もうぼちぼち「15の夜」を迎えようとしているという年月だ。その後、私も一人のホストに5年近くお金を注ぎ込むことを思えば、そんなこと言えた義理ではないが、少なくとも、その当時は衝撃だった。
7年間一人のホストの売り上げを支え続けたミク。先に結果からお伝えする――彼女は歌舞伎町から消えて、帰って来なかった。しかも1000万円か、それ以上のお金と一緒に消えてしまったのだ。泡のように。シャンパンの話でも、人魚姫の伝説でもない。しかし、彼女は、泡姫(ソープ嬢)ではあった。
なんだか安いサスペンス染みてきたが、これは空想ではない。まごうことなき、ノンフィクションである。後に、「歌舞伎町人魚伝説事件」と語り継がれることになる……もとい、私が語り継ぐその日は、彼女の担当のラスト・イベントだった。