サイゾーウーマンコラムオンナ万引きGメン日誌万引きGメン絶句“異臭の正体” コラム オンナ万引きGメン日誌 「くさいわね……」電動車いすのおばあちゃん万引き犯、Gメンが眉をひそめた“異臭の正体” 2019/06/22 16:00 澄江 オンナ万引きGメン日誌 おばあちゃんは「忘れちゃうのよ」と言い訳を口にした それから白菜や長ネギ、モヤシなど、比較的安価でかさばる商品だけ、きちんと精算を済ませた彼女は、お客様係に先導されながら、屋外の駐輪場に直結するエレベーターに乗り込んでいきます。思い切って同じエレベーターに乗り込んだ私は、すぐに行先ボタンを押して扉を閉めました。地上階に到着するまでの間、窃盗の被疑者と二人きりで過ごすエレベーター内の空気が、いつもより重たく感じられたことを覚えています。 「お先にどうぞ」 「ありがとう」 先に彼女を行かせて、電動車いすが公道に出て走り始めたところで横に並んだ私は、そこであらためて声をかけました。 「おばあちゃん、ちょっと待って。お店の者ですけど、お金払ってないものあるでしょう?」 「ひっつ!? なんだって?」 少し驚いた様子を見せた彼女は、口の中でずれた入れ歯を直しながら、コンドルのような鋭い目で私を睨んできました。どうやら聞こえなかったようなので、膝の上にある盗品を詰めたバッグを軽く叩きながら、もう一度ゆっくりと、少し大きめの声で言い直します。 「お店の者ですけど、このバッグの中にいれたモノ、お金払ってほしいんですよ」 「あら、そうだったかしら? もう今年で90になるから、忘れちゃうのよ。堪忍ね……」 惚ける姿勢を見せながらも、用意していたかのようにスラスラと言い訳する彼女の姿からは、こうした場面に慣れているような雰囲気が伝わってきました。見え透いた言い訳を聞くことなく、電動車いすに乗った彼女をエレベーターまで連れ戻すと、さっき乗った時には感じなかった異臭が室内に漂っています。 (くさいわね……。一体、なんのニオイかしら?) エレベーターに乗っている間、なるべく息を吸わないようにして過ごした私は、扉が開くと同時に外に出て、廊下に置かれた書類などを除けながら電動車いすを誘導します。応接室内に電動車いすの駐車スペースを確保して、バッグの中に隠したモノをテーブルの上に出してもらうと、ステーキ肉や高級ハム、幕の内弁当、さくらんぼ、もみじまんじゅうなど、計8点、合計9,000円ほどの商品が出てきました。盗んだモノを並べてみれば豪華な感じに見えますが、一度盗まれたモノとしてみると、なぜか汚らしく見えてくるのが不思議です。 「今日は、どうしたんですか?」 「年金だけじゃあ、おいしいもの食べられないから……」 「買い取るだけのお金はあるのかな?」 「それが全然足りないのよ。このお肉とメロンは、お返ししてもいいかしら」 土産物屋で見かける古臭いガマグチに入れられた彼女の所持金は、小銭と合わせても3,000円足らずで、全ての商品を買い取ることはできません。身分を証明できるものも持っていないというので、仕方なく紙に書いてもらうよう頼むと、心電図のような線で書かれた文字は解読不能。やむなく口頭での聴き取りを試みれば、入れ歯がずれてしまってうまくしゃべれない状況です。できることがなくなり、内線電話で店長を呼び出して状況を説明すると、電動車いすで万引きするなんて人は初めてだと驚き、迷うことなく警察に通報されました。身元がわからないことよりも、商品の買い取りができないことの方が、通報の決め手になったようです。 次のページ 異臭の正体を尋ねてみると…… 前のページ123次のページ Yahoo 新品本/万引き老人 「貧困」と「孤独」が支配する絶望老後 伊東ゆう/著 関連記事 グリコ・森永事件の犯人を彷彿――万引きGメンがゾッとした「キツネ目の少年」の悪事とは?「マジ、ウケるんだけどー」万引きGメンが四国出張で遭遇した、“2人の少女”への複雑な思い「おばあちゃんに捕まえられるの?」意地悪なクライアントに見せた、ベテラン万引きGメン熟練の技資産家の万引き老人は、万札を放り投げた! 「地位の高い人ほど謝罪しない」現場のリアル女はうまい棒を天にかざし、太ももに叩きつけた! たった「9円」で捕まった万引き犯の顛末