『彼女が大工になった理由』レビュー:“ニュースサイトの仕事”に疲れた彼女が、“手で作る仕事”から得た学び
――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。
■『彼女が大工になった理由』(ニナ・マクローリン著、宮崎真紀訳/エクスナレッジ)
【概要】
仕事を辞め、アパートを引き払い、恋人とも別れた30歳女性が、全くの未経験から大工の世界に飛び込んだ――。ボストンの新聞社で一日中パソコンに向かい続けることに疲弊した著者が、大工という職業に就き、戸惑い失敗を重ねながら新たな自分を発見した数年を振り返る、異色の大工エッセイ。
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「目覚めている間はたいていパソコンの画面の前でクリックしているようになって何年かすると、自分が椅子の上に乗ったただの肉のかたまりになってしまったことに気づいた。(略)脳みその皺がしだいに伸びて、ゆっくりと頭が鈍り、怠惰になっていく」
パソコンの前で一日中デスクワークをする人、何時間もインターネットを見続けてしまうような人なら、誰もが自分のことを言われているようでヒヤリとしてしまうこのテキストは、ノンフィクションエッセイ『彼女が大工になった理由』(エクスナレッジ刊)の著者ニナ・マクローリンが、ニュースサイトの編集に倦み疲れていた時を振り返った言葉だ。
ボストンの新聞社に勤め、ジャーナリストの仕事を天職だと思っていたニナ。就職した当初は楽しく、充実した日々を過ごしていたが、インターネットの台頭によって仕事の内容が徐々に変化し、「無数のクリック」が仕事の大半になったとき、生きる意味を見失ってしまう。「実体があるものを相手にしたい、手でさわれるものができあがる仕事がしたい」という思いで仕事を辞め、同時に恋人とも別れ、引っ越し、人生をリセットすることになる。
そんな彼女が、偶然見つけた「大工見習い:とくに女性の方、応募をお待ちしています」という募集に飛びつき、募集主である女性大工・メアリーに情熱を認められ、採用される。プラスドライバーとマイナスドライバーの違いもわかっていない、本当に素人からの転身だった。30歳・未経験から大工見習いを始めることになったニナが、何もかもが初めての環境の中で、失敗を重ねながらもさまざまな技術をゆっくりと自らのものにしていく様子がつづられていく。