認知症患者のセクハラ対策は「虐待との線引き難しい」――介護事業者が語る葛藤と望み
60代男性。グループホームを中心に、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)も展開する事業所幹部
対策マニュアルの存在は知っていましたが、これまでじっくり読んだことはなく、今回、改めてマニュアルを読みました。セクハラは介護業界が抱える問題だとも言えます。職員にとって、お客さまがハラスメントをするのは、「自分たちが悪い。介護のプロとして能力があればかわせるはず」という自己反省につながりがちなんです。認知症の人からハラスメントをされるのは、人間関係が構築できていないからだと反省してしまう。
まずハラスメントは、施設か在宅か、本人からか家族からか、認知症かそうでないか、とそれぞれ分けて考える必要があります。在宅は確かにセクハラが多い。相手のフィールドに行くわけですから、より大変です。AVつけっぱなし、なんていうことはザラにあります。でも訪問介護に2人で行くというのは、コストに見合わないでしょうね。
グループホームは認知症の人の施設なので、これもまたセクハラだらけ。毅然とした態度を取ると言っても、「ダメ」と強く言うのと、虐待との線引きもまた難しい。
いずれも大事なのは、自己反省ではなく、情報共有。在宅なら、ケアマネまで情報を上げる。ケアマネが機能していないと、泣き寝入りするしかないのですが、認知症ではない人からのセクハラがひどければ、ケアプランに基づく介護サービスを提供できないとして、サービス提供自体を断ることもすべき。あるいは、役所や地域包括支援センターまで投げ返す。利用者から叩かれるのなら、警察もありだと思います。
グループホームなどの施設だと、ハラスメントを理由に入居者を退去させるのは難しいですが、これも共有が大事。担当者会議で情報を共有して、個別に対策を考える必要があります。
認知症といっても、精神疾患の場合もあります。ハラスメントというレベルを超えると、暴力とみなして、対処を考える必要があります。介護職一人で引き受けさせてはいけない。逃げるとか、人を呼ぶことも場合によっては必要ですし、入居者を病院に移すことも考えなければなりません。
いずれにしても、介護職が一人で抱え込まず、みんなで話せる環境づくりが重要。そのうえで医師や家族と相談するなどの対策を考え、予防策も取って、とことんやらないとダメだと思います。そこまでやらないと、家族も納得しませんし、職員による虐待につながったり、辞めることになったりするのです。
いろんな問題が発生したときに、プロとして乗り切ろうとする気持ちは大切ですが、ハラスメントに関しては、スキルが足りないということで片付けては絶対にいけないと思っています。