「炎上作家・のぶみ」「道徳、出オチ絵本」――子どもにとって“良質な絵本”とは何か?
東條 のぶみさんの『ママがおばけになっちゃった!』(講談社)は、お母さんが亡くなった子どもを描くという内容で、物議を醸しました。ワイドショーで取り上げられたために、内容をよく確認せずにネットで購入する人も多く、“売れすぎた”のが問題だったと思います。というのも、売れすぎたことにより、大勢の子どもの前で、あの絵本を読み聞かせをする場面が、日本全国に広がっていったんです。もしかしたらその中には、実際に親を亡くすという“喪失体験”をした子、また、ショックを受けた子がいたかもしれない。でも、そういった子の“心のケア”が個別にできない状況が生まれてしまったのです。「平積みされているからよい絵本」というのは間違い。ただ逆に言うと、家庭の中で読む分には、親が心のケアをしてあげることはできるのかな……と思う部分はありますね。
北尾 あの本は死をテーマにしているのではなく、「お母さんがいなくなると困るよね」ということを伝えたいがために、死を道具にしてしまっているんです。絵本の権威が、何か言うのではないかと思っていたけど、誰も言ってくれませんでした。
神保 有識者は読んでもいなかったんですよ。ワイドショーで話題になっていたのに、どんな本かも知らない。そもそもそういう人はワイドショーも見ないから。
北尾 絵本の権威が世間とずれたところにいるというのも、それはそれで問題ですよね。そういう人たちの間では、仕掛け絵本は邪道と言われていて、絵本の範疇に入れてもらえなんです。赤ちゃんのために仕掛け絵本を読み聞かせするのも、絵本のスタートとしてあっていいことだと思うんですが、認めてもらえない。
東條 絵本の権威も知らない。絵本に興味のない人も知らない。結局、その中間にいる層がのぶみさんの絵本について騒いでいる。お母さんの中でも分断されていますよね。繰り返しになりますが、読み聞かせは「こうでなければいけない」ということはありません。楽しく読めればいい。苦しいことがいっぱいの子育てで、楽しむためのアイテムの一つが絵本。ピアノでもスポーツでもいい。ただ、私は絵本が好きだから「絵本は面白い」と言いたい。そんな感じですね。
ちなみに、2018年9月に『タイプライターズ~物書きの世界~』(BSフジテレビ)に出演した際、MCの加藤シゲアキさんに『漂流物』(デイヴィッド・ウィーズナー/BL出版)という絵本をプレゼントしました。その場で読まれて「これ、すごい好きです」とおっしゃってましたよ。ジャニーズファンの方は、そういう取っ掛かりで絵本を手に取ってみてもいいのではないでしょうか。もちろん、ご自身が読む用、子どもが読む用、どちらでもいいと思います。
北尾 そうですね。「読み聞かせをしなければ」ではなく、やっぱり面白いから読んでほしいですね。