サイゾーウーマンカルチャーインタビュー「娘と性交した父親が無罪」を考える カルチャー インタビュー 娘と性交した父親が無罪――性暴力サバイバーが「つらいし、悲しいし、おかしい」事件と判決を語る 2019/04/29 17:00 サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman) インタビュー社会 貞操概念が生んだ「被害者に責任がある」という風潮 ――そもそも性犯罪においては、「被害者側に責任がある」とされ、問題視されることがよくあります。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。 山本 日本には、貞操概念があるからでしょう。女性は家のために、命をかけて自分の処女性や体を守らなければいけない、それをしなかったため“責任”が生じるという考え方で、この「家のため」とは、家の血統を守るために、ほかの男に性交されてはいけないといった意味合いです。刑法は、今から112年前の1907年に作られたのですが、当時から性犯罪の構成要件に「暴行脅迫要件」があり、その保護法益(法令がある特定の行為を規制することによって保護、実現しようとしている利益)は「性的自由ないしは貞操」とされていました。つまり、「貞操は守らなければいけないものだけど、激しく暴行脅迫を受けたら、貞操を守れなくてもしょうがない」という考え方で、被害者個人の身体や意思決定を侵害したとは考えられていなかったわけです。それが受け継がれ、被害者に厳しい判決が下されて続けてきたという背景があります。 性にはダブルスタンダードがあって、「女性は貞操を守り、男性の興味・関心を惹起しないようにおとなくしていなければならない」一方で「男性は、女性に対してグイグイ押していくのが男性らしい」というものです。そこに齟齬が生じていて、例えば痴漢事件でも「女性が短いスカートをはいているから悪い」「一人で夜道を歩いているから悪い」など、被害者の落ち度ばかりが着目され、加害者の犯罪性が問われないという状況が生まれてしまいます。 ――17年に、110年ぶりに刑法性犯罪が改められ、名称が「強姦罪」から「強制性交等罪」になり、内容も一部変更となりました。しかし、今回の判決で、まだ問題点は多いと感じました。 山本 「監護者性交等罪」「監護者わいせつ罪」という18歳未満(17歳まで)の子どもを監護する親や児童養護施設職員など、その影響力に乗じて性交・わいせつ行為をした者を処罰できる罪が新設されたものの、今回の被害者女性は事件当時19歳だったので、適用されませんでした。「もっと年齢を上げておくべきだったのに」と思いましたね。 ――被害者女性は、中2の頃から性的虐待を受けていたといいますが……。 山本 それは、今回の起訴内容には含まれていませんでした。検察側が、当時の場所や時間を特定できなかったのではないかという話を聞きましたが、子どもの頃から、日常的にそういったことをされていたら、「何月何日何時何分」なんてことは、わからなくて当然だと思います。 時効の話になりますが、旧強姦罪の公訴時効は10年で、改正された強制性交等罪も10年なんです。しかし、ドイツの司法制度では、子どもの頃に性的虐待を受けた人が、コールセンターなどに電話をして相談できた平均年齢が46歳だったという調査結果から、性的虐待の場合、被害者の年齢が30歳まで時効停止、その後20年間、起訴可能となっています。日本でも、何歳まで虐待の影響下にいるのかという実態を把握した上で、刑法が作られるべき。「自分がされたことはおかしかった」と気づく頃には、もう訴えられないという状況はなくすべきだと感じます。 ――「抵抗できたのか/できなかったのか」が争点になった点についてはどうでしょうか。 山本 旧強姦罪からある「暴行脅迫要件」に関しても問題だと思っています。暴行脅迫要件を満たせないから、検察が起訴してくれない。そういった被害者は山のようにいるのに、ニュースにはなりません。また、起訴できたとしても、「暴行脅迫の程度に達していない」「はっきり抵抗しなかったから相手はわからなかった」などと判断されることもあります。そもそも刑法は、性犯罪の実態や精神医学的知見を踏まえて作られたものではないので、普通に考えて「おかしい」と感じる判決が出るのです。 一般的に、もっと「抵抗できないのが当たり前」という認識が広まってほしいと思います。昨年、イギリスに行ったのですが、性犯罪に遭うと、被害者はフリーズ状態になって抵抗できない、またそういうことがあってもすぐには訴えられないことが、「当然」と認識されているなと感じました。それは科学的な根拠をもって立証されているからであり、日本の裁判官も個人の経験則で判決を出すのはやめてほしいと感じます。 ――海外には、性犯罪が「抵抗できたか/できなかったのか」ではなく「同意があったか/なかったか」によって判断される国もあります。 山本 イギリスでは不同意性交を性犯罪としています。法律で「同意とは何か」を定めているのですが、「同意とは、自由と能力があって初めて選択できるもの」とされているんです。相相手が教師などの目上の立場という地位関係性において、相手に従わなければいけない状態は自由ではない、また、薬物やアルコールにより意識状態が下がっている、また幼すぎたり、何らかの障害がある場合も、同意を選択できる能力がないとみなされます。なお、日本の刑法性犯罪は、17年の改正時、3年後を目処、つまり20年を目処として、「必要があると認めるときは見直しを検討する」とされています。 次のページ 加害者の責任を追及していくような流れを求める 前のページ123次のページ Yahoo 13歳、「私」をなくした私 性暴力と生きることのリアル/山本潤 関連記事 瀬地山角氏に聞く、「SPA!」ヤレる女子大学生記事の炎上と「東大生の性犯罪問題」の背景「ミニスカートが性犯罪誘発」「これもセクハラ?」女性を不快にする表現がなくならないワケなぜ「虐待する親」「パートナーの虐待を止めない親」が生まれるのか、臨床心理士が心理状態を分析虐待した保護者、虐待された子のその後は――? 児童相談所の「措置機能」を考える15年にわたる実父の強姦が黙殺された、「栃木実父殺し事件」の時代