自分の髪を抜く抜毛症は「こっちを向いて」のサイン! 医師に聞いた実態と治療法
それでは、自分や身の周りの人が抜毛症かもしれないと気づいたとき、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか?
「抜毛症は、手が毛を抜くことを覚えてしまっているので、とにかく頭を触らせないことです。頭にバンダナやタオルを巻いたり、帽子をかぶったりして髪の毛を隠すことで、抜く前に気づくことができます。触り心地の良いぬいぐるみを握るなど、別の手癖をつけるのもひとつの手です」
また、抜く行為を防ぐのも重要ですが、「抜かない環境づくりも重要」と齊藤先生は言います。
「どのタイミング・場所で抜いているのか把握するために、どこに毛がたくさん落ちているのか観察してみるといいです。お子さんの場合、勉強机の周りにたくさん落ちているのであれば、勉強をする場所を変えてみたり、リラックスする時間を作ってみてはいかがでしょう。そもそも、『勉強がストレスになっているかもしれない』というヒントの表れなので、過度に期待をかけるような発言は控えましょう」
抜毛症で医療機関を受診する場合は、基本的には皮膚科を受診し、必要に応じて精神科を受診する流れになるそうです。
「皮膚科では、皮膚病の場合を除き、初期の治療では主にカウンセリングを行います。そこでは抜かないためのアドバイスとともに、ストレスの原因がどこにあるのか、それを解消するにはどうしたらよいのかを患者さんと一緒に考えます」
たとえば大人で、職場にストレスの原因がある場合は、「誰か相談できる人はいないか」「気分転換できる方法はないか」「どうしてもつらかったら、職場をお休みすることも検討してみては」といった提案をする場合もあるのだとか。
「抜毛症は『こっちを見て』という周りの人へのアピールのこともあるので、その場合は本人のケアだけでなく、周囲が寄り添って話を聞いてあげることや本人を許容して認めてあげることが重要です。身近に話せる人がいない場合は、遠くにいる家族やネットの友だちでもいいし、それこそ医療機関を頼ってくれてもいい。8割はそういった話し合いを続けると症状が改善します。一定期間治療をして、どうしても不安が募って抜毛もやめられないという場合は、精神科で心が楽になるお薬を処方してもらうことも選択肢のひとつです。段階を踏んで、一歩一歩治していきましょう」
意外にも、薬なしで治る場合が多いという抜毛症。もしかして? と悩んでいる人は、まずは周りの人に相談し、皮膚科の受診を検討してみてはいかがでしょうか。
(松嶋千春/清談社)
齊藤典充(さいとう・のりみつ)
カリフォルニア大学サンディエゴ校留学・国立病院機構横浜医療センター皮膚科部長を経て、横浜労災病院皮膚科部長。なかでも脱毛症を専門とし、円形脱毛症や男性型脱毛症(AGA)など、デリケートな問題に悩む患者を救うべく診療を実施している。毛髪科学研究会世話人、日本臨床毛髪学会評議員。