セレブ家庭で虐待は起こらない? 南青山児相建設計画、元児童福祉司が語る「反対派」の盲点
――裕福な家庭は、両親がエリートな場合も多く、子どもへの過度な期待が、虐待につながるのでは……と想像してしまうのですが。
金井 名門校に入れたいとか、親の仕事を継がせたいとか、親の希望から勉強などを強要するケースはあるでしょう。それによって「できないから叩く」「ごはんをあげない」などとエスカレートしていっても、親は子どものためだと思っているので、虐待している認識がないのも特徴です。また、子ども自身が自分の夢だと思い込んでしまって、「やらなきゃいけない」「叩かれるのは自分が悪いから」などと受け止めていることも多いです。
以前、一見、経済的な問題を抱えているようには見えない、仲のいい普通のご家庭の父親が、「娘を海外の有名スポーツチームに入れる」という夢を持ち、毎日過度な練習を娘にさせていたというケースがありました。そのスポーツチームは、男性しか入れないので、現実問題として実現不可能な夢なのですが、それでも娘さんに練習を強要していたのです。練習はエスカレートしていき、できないとゴハンを食べさせなかったり、暴力をふるったりしていたらしく、娘さんの異変に気付いた学校からの通告で一時保護したのですが、よくよく話を聞いてみると、父親は自分の実家で家庭内暴力を働いて親にお金を支援させていたこともわかりました。これもまた、経済的要因よりも、成熟しきらないまま親になったことで、このような虐待が起こってしまったのだと思います。
――やはり父親に虐待との認識はなかったのでしょうか。
金井 なかったですね。娘さんもそのような環境で育ったために、「私はこのスポーツが好きだからもっと練習したい、家にいたい」と言っていて、「そのチームに入らなくても、このスポーツを続けることはできるよ」と、まずは呪縛から解かないと、なかなか一時保護もできないほどでした。この家族に限らず、このようなケースでは、虐待だとわかってもらえないことには次のステップへ進めないので、一時保護をして親子分離することが、親の言う通りにしなくても良い事を子どもに気づかせると共に「大変なことをしていたんだ」と親にも気づいてもらえるきっかけになることも多いです。
――やはり虐待は経済状況に関係なく、どこの家庭でも起こりうるということですね。
金井 虐待でもっとも多いのは、実の母親によるものなんです。主な要因は育児不安やストレスの蓄積ですが、育児能力が不十分で養育できないとか、精神疾患や産後鬱でネグレクトしてしまうケースも多いです。また、望まない妊娠だったり、保護者自身のパーソナリティに問題があったりして、我が子に愛情が持てず、そこの葛藤から「愛情が持てないのは、この子が悪いからだ」と子どもに責任を転嫁して虐待に至ることもあります。そのほかにも、すごく手のかかる子どもで親がうまく関われなかったり、夫が育児を手伝ってくれなかったり、ステップファミリーや内縁の夫がいるなど家庭環境が複雑だったりすることから、虐待に発展することもあります。つまり、虐待のリスク要因はさまざまなので、誰しも、自分がそうなる可能性があるということです。虐待する親は特別な人間だと思われがちですが、誰にでも起こりうることです。多くの人が「自分の問題」として受け止めてくれたらと思います。